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ID番号 09419
事件名 損害賠償請求事件(102号)、地位確認請求事件(174号)
いわゆる事件名 旭川公証人合同役場事件
争点 セクハラ、違法な退職勧奨による損害賠償
事案概要 (1)本件は、公証人である被告と労働契約を締結し、書記として勤務していた原告が、〈1〉被告による多数回のメッセージ等の送信、身体的接触及び性的言動等のセクシュアル・ハラスメント(以下「セクハラ」という。)行為並びに違法な退職勧奨行為によって、PTSD等の精神疾患を発症し、就労不能となるなどの損害を被ったと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償等の支払を求めた事案(第1事件)と、〈2〉原告がした退職の意思表示は被告の上記〈1〉の不法行為によるものであるから無効であるか、取り消すなどと主張して、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、令和元年8月から賃金、賞与等の支払を求め、予備的に、原告は上記〈1〉の不法行為によって退職を余儀なくされ、賃金及び賞与相当額の損害を被ったと主張して、不法行為に基づき、将来の賃金及び賞与相当額の一部等の支払を求めた事案(第2事件)である。
(2)判決は、被告が原告に対し時間を問わず多数回のメッセージ等を送信して精神的苦痛を与えたことなどによる損害賠償を認め、その余の請求は棄却した。
参照法条 民法709条
体系項目 労基法の基本原則 (民事)/ 均等待遇/ (11) セクシャル・ハラスメント アカデミック・ハラスメント
退職/5 退職勧奨
裁判年月日 令和3年3月30日
裁判所名 旭川地
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ワ)102号 /令和1年(ワ)174号
裁判結果 一部認容、一部棄却(102号)、棄却(174号)
出典 労働判例1248号62頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則 (民事)/ 均等待遇/ (11) セクシャル・ハラスメント アカデミック・ハラスメント〕
(1)被告は、遅くとも原告から交際相手が心配していることを理由に会食の誘いを断られた時点で、被告の言動が原告にとって迷惑であり、性的な嫌悪感を含む精神的苦痛を生じさせるものあることを認識し得たといえ、使用者として、これを認識し、業務上の必要性に乏しいメッセージ等の送信を控えるべき注意義務を負っていたというべきである。そうであるにもかかわらず、被告は、会食の誘いを断られた後も、原告に対するメッセージ等の送信を続けており、被告によるメッセージ等の送信を全体としてみれば、社会通念上、許容される限度を超えて、原告に対する精神的苦痛を与えたと評価され、その人格権を侵害するものとして不法行為に該当する。
〔退職/5 退職勧奨〕
(2)被告は、D前公証人から原告が退職の意向を示していたことを事前に聞いていたことに加えて、原告から退職をうかがわせるようなメッセージの送信を受けたり、原告がC書記に対し、自己が不在であることを想定した注意をする場面を目撃していたことなどに照らすと、被告が、原告に退職の意向があると考えたことが不自然であるとはいえず、原告に対し、いつ頃まで本件役場で働くつもりなのかを確認したことが、直ちに違法な退職勧奨に当たるということはできない。
(3)原告と被告との間において、当初、原告が令和元年6月のボーナスの支給を受けた上で同年7月末日をもって退職するものとされ、原告がその旨の本件退職届を提出したものの、その際、原告が退職時期を早めることに言及したことから、改めて退職時期を平成31年3月末日とすることになり、これを前提とする離職証明書が作成されたこと、原告は、同年1月末日まで出勤した後、同年3月末日まで年次有給休暇を全て消化し、同年4月1日以降、本件役場に出勤しなかったことが認められる。
原告が本件退職届を提出する際に、原告が平成31年3月末日をもって被告を退職する旨の合意が成立したというべきである。その後、被告は、原告が令和元年7月末日で退職する旨の離職証明書を作成し直し、また、本件訴訟において、原告の同日までの労働契約上の地位を争っていないが、これは、組合が、原告による意思表示の後に、原告の労働契約上の地位について争ったことから、本件退職届の記載に従って取り扱うことにしたという事後的な事情にすぎず、上記判断を左右するものではない。
 よって、退職合意が成立していない旨の原告の主張を採用することはできない。
(4)被告は、原告に対し、時間を問わず多数回のメッセージ等を送信して精神的苦痛を与えた。そして、被告による違法な退職勧奨等があったとまでは認められず、被告の不法行為と原告の退職の意思表示との間に相当因果関係までは認められないものの、被告の上記不法行為は、原告が被告に対する嫌悪感を抱く端緒になったものと推認され、原告が退職の意思表示をするに至った動機として、被告に対する嫌悪があったことは否定できない。これら不法行為の態様やその後の事情等、本件記録に顕れた事情の一切を総合的に勘案すれば、原告の被った精神的苦痛を慰謝するための額として20万円が相当である。