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ID番号 09420
事件名 無期転換逃れ地位確認請求事件
いわゆる事件名 日本通運(川崎・雇止め)事件
争点 無期転換逃れ
事案概要 (1)本件は、被告(日本通運株式会社)との間で1年間の有期雇用契約(同契約には、最初の雇用契約開始日から通算して5年を超えて更新することはない旨の条項が付されていた。)を締結し、4回目の契約更新を経て勤務していた原告が、被告に対し、被告が当初の雇用契約から5年の期間満了に当たる平成30年6月30日付けで原告を雇止めしたことについて、〈1〉上記条項は労働契約法18条の無期転換申込権を回避しようとするもので無効であり、原告には雇用継続の合理的期待があった、〈2〉同雇止めには客観的合理性、社会通念上の相当性が認められないなどと主張し、被告による雇止めは許されないものであるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同契約に基づく賃金請求権に基づき、上記雇止め後の賃金等の支払を求める事案である。
(2)判決は、雇止めを有効と認め、原告の請求を棄却した。
参照法条 労働契約法18条
体系項目 解雇 (民事)/ 14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)
裁判年月日 令和3年3月30日
裁判所名 横浜地川崎支
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)563号
裁判結果 棄却
出典 判例時報2501号93頁
労働判例1255号76頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文 新谷眞人・労働法律旬報1993号26~33頁2021年10月10日
竹内(奥野)寿(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1568号126~129頁2022年3月
判決理由 〔解雇 (民事)/ 14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)〕
(1)労働契約法19条2号の「満了時」は、最初の有期雇用契約の締結時から雇止めされた雇用契約の満了時までの間の全ての事情が総合的に勘案されることを示すものと解されるから、上記満了時までにいったん労働者が雇用継続への合理的期待を抱いたにもかかわらず、当該有期雇用契約期間満了前に使用者が更新年数の上限を一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに同号の該当性は否定されないと解される。
(2)本件においては、通常は労働者において未だ更新に対する合理的期待が形成される以前である本件雇用契約締結当初から、更新上限があることが明確に示され、原告もそれを認識の上本件雇用契約を締結しており、その後も更新に係る条件には特段の変更もなく更新が重ねられ、4回目の更新時に、当初から更新上限として予定されたとおりに更新をしないものとされている。また、原告の業務はある程度長期的な継続は見込まれるものであるとしても、オイル配送センターの事業内容や従前の経営状況に加え、原告の担当業務の内容や本件雇用契約上の更新の判断基準等に照らせば、原告の業務は、顧客の事情により業務量の減少・契約終了があることが想定されていたこと、原告の業務内容自体は高度なものではなく代替可能であったことからすれば、恒常的とまではいえないものであった。加えて、オイル配送センターにおいて就労していた他の有期雇用労働者は原告とは契約条件の異なる者らであった。その他、被告C支店において不更新条項が約定どおりに運用されていない実情はうかがわれない。
 このような状況の下では、原告に、本件雇用契約締結から雇用期間が満了した平成30年6月30日までの間に、更新に対する合理的な期待を生じさせる事情があったとは認め難い。
(3)本件雇用契約書や各更新契約書における契約条件は雇用期間を1年とするものであり、上記各契約書には、上記の更新の判断基準に係る記載とともに、一貫して5年を上限とする旨の記載があったことからすると、平成30年6月30日時点のオイル配送センターにおける業務量や原告の勤務成績、オイル配送センターの業績等につき、原告が主張するような事情があったとしても、上記各契約書上の更新の判断基準(・契約期間満了時の業務量 ・勤務成績、態度 ・能力 ・支店の経営状況 ・従事している業務の進捗状況)に係る記載をもって、5年を超える更新を期待させるものということはできない(上記のとおり、E事業所長、F事業所長による、原告に5年を超える更新を期待させるような説明が繰り返されていた事実を認めることができず、また、原告以外の契約社員の更新状況から原告が契約更新への期待をもったとしてもその期待が合理的であったとはいえないから、これらと相まって更新を期待させる記載であるということもできない。)。
(4)労働契約法18条は、有期契約の利用自体は許容しつつ、5年を超えたときに有期雇用契約を無期雇用契約へ移行させることで有期契約の濫用的利用を抑制し、もって労働者の雇用の安定を図る趣旨の規定である。このような趣旨に照らすと、使用者が5年を超えて労働者を雇用する意図がない場合に、当初から更新上限を定めることが直ちに違法に当たるものではない。5年到来の直前に、有期契約労働者を使用する経営理念を示さないまま、次期更新時で雇止めをするような、無期転換阻止のみを狙ったものとしかいい難い不自然な態様で行われる雇止めが行われた場合であれば格別、有期雇用の管理に関し、労働協約には至らずとも労使協議を経た一定の社内ルールを定めて、これに従って契約締結当初より5年を超えないことを契約条件としている本件雇用契約について、労働契約法18条の潜脱に当たるとはいえない。したがって、同法の潜脱を前提とする公序良俗違反の原告の上記主張は理由がない。
(5)原告は、派遣契約期間と通算すると期間が5年を超えることに照らして、本件雇止めが労働契約法18条の潜脱となるという趣旨の主張をするが、同法は「同一の使用者」と定めているところ(原告が提出する厚生労働基準局長発「労働契約法の施行について」(平成24年基発0810第2号)においても、同法の「同一の使用者」に関し、派遣労働者の場合は、労働契約の締結の主体である派遣元事業主との有期労働契約について同法1項の通算契約期間が計算されるものであることが記載されている。)、派遣期間中においては派遣労働者であった原告と派遣先である被告との間に直接の契約関係はなく、本件において派遣元であるスタッフサービスと派遣先である被告とを実質的に同一と考えるべき事情も本件証拠上うかがえないから、派遣契約期間を通算するなどとする原告の主張は採用できない。