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ID番号 09421
事件名 療養・休業補償給付不支給決定取消請求事件
いわゆる事件名 国・川越労基署長事件
争点 労災保険特別加入者の業務遂行性
事案概要 (1)本件は、一般区域貨物自動車運送事業等を目的とする有限会社サイマツ(以下「サイマツ」という。)の取締役であり、労災保険の特別加入者である原告が、平成28年9月30日、購入する車両を探すために中古車両のオークションを営む「アライオート」のオークション会場に赴いた後の午後5時45分頃、道路を横断中に自動車に衝突され、これにより重症頭部外傷(脳挫傷、外傷性くも膜下出血、頭蓋骨骨折)、両側肺挫傷等の傷害を負い、療養補償給付及び休業補償給付を請求したのに対し、処分行政庁(川越労基署長)が、特別加入者として業務遂行性が認められる取扱いのいずれにも該当せず、労働者の行う業務に準じた業務の範囲外であるとして、原告に対し、療養補償給付及び休業補償給付を支給しない旨の各処分(以下、併せて「本件各処分」という。)をしたことから、本件各処分がいずれも違法であるとしてその取消しを求める事案である。
(2)判決は、原告の請求を認容し、処分行政庁の決定を取り消した。
参照法条 労災保険法34条
体系項目 労災補償・労災保険/労災保険の適用/ (3) 特別加入
裁判年月日 令和3年4月5日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成31年(行ウ)147号
裁判結果 認容
出典 D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険/労災保険の適用/ (3) 特別加入〕
(1)小規模な車両運送事業を営む事業者においては、事業者が運送用の車両を調達し、これを従業員に使用させることが通常であり、小規模事業者の場合には、運転手の組織と調達する組織とが場所的、組織的に明確に区分されていないのが一般的であるから、車両調達の前提となる車両の探索・下見と車両による荷物等の運送とは、同一の組織の下で相関連して行われる一体の作業とみるのが相当である。この点、サイマツにおいても、現に従業員らが車両の探索・下見を業務として行っていたと認められる。  そうすると、サイマツにおいては、運転業務について保険関係が成立しているところ、運送事業に使用する車両の探索・下見は、運転業務と同一の組織の下で相関連して行われる一体の作業であって、「運転」業務に含まれるものであるから、これについても労災保険関係が成立しているというべきである。保険関係が成立している「運転」の業務に車両の探索・下見が含まれないとする被告の主張は、採用することができない。
(2)サイマツにおいては、最終的な車両購入の権限は取締役である原告が有していたものであるが、サイマツで使用する車両の購入に向けての探索・下見について、原告と従業員との間で業務遂行過程を比較すると、業務を実施する過程において外形上何ら異なるところはないから、少なくとも実際に購入を決定し入札を委託しなかった本件においては、原告による車両の探索・下見は、従業員が業務として行った場合と外形上は全く同様であって、異なるところは、自ら購入を決定し入札を委託する可能性があったか否かという点のみである。そして、車両の調達に際して相手方と金額を交渉するなどの行為やそれに先立って車両を探す行為が、行為の性質から客観的、類型的に中小事業主の事業主の立場において行う事業主本来の業務であるとはいえないことは前判示のとおりである。車両の探索・下見、購入を決定し入札を委託するまでの過程をみても、自ら購入を決定し入札を委託する可能性があるか否かによって、業務上の事故発生の危険性について質的に差異があるということも困難である。そうすると、実際に購入を決定し入札を委託していない本件における特別加入制度の業務遂行性判断において、外形上はサイマツの従業員が行うのと全く同様の車両の探索・下見について、自ら購入を決定し入札を委託する可能性があったか否かの点で異なることをもって、労働者の行う業務に準じた業務に含まれないと解することは相当でなく、原告による本件の車両の探索・下見は、サイマツの従業員の業務に準じた業務の範囲内のものと認めるのが相当である。
 以上に判示したところによれば、原告は、本件事故当時、労働者の行う業務に準じた業務としてサイマツの事業に用いる車両の探索・下見を行っており、そのための出張の際に本件事故に遭ったものであるから、業務遂行性が認められる。