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ID番号 09422
事件名 未払賃金請求事件
いわゆる事件名 ノミック事件
争点 固定残業代の有効性
事案概要 (1)本件は、被告との間でそれぞれ労働契約を締結していた原告X1、X2が、退職後に、被告に対し、固定残業代は無効であるとして、在職中に時間外労働をしたが割増賃金が未払であると主張して、各労働契約に基づく賃金支払請求及び労働基準法114条に基づく未払法外残業代と同額の付加金の支払などを求める事案である。
(2)判決は、固定残業代に係る原告らの同意はなく、就業規則も無効であるなどとし、消滅時効の対象となる期間の賃金を除く部分について、原告らの請求を認容した。
参照法条 労働基準法37条
労働契約法7条
体系項目 賃金 (民事)/ 割増賃金/ (6) 固定残業給
裁判年月日 令和3年4月13日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)40066号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金 (民事)/ 割増賃金/ (6) 固定残業給〕
(1)原告X2には、平成18年7月分の給与から、それまで支給されていた調整手当が支払われなくなり、代わりに固定残業手当が支払われるようになったこと、原告X2は、退職するまでの間、これに異議を述べなかったことが認められる。しかしながら、上記変更の前後で原告X2に対する支給総額は増えており、また、被告では、従前、残業をしても割増賃金が支払われることがなかったことが認められることに照らすと、原告X2は、手取りの給与が減らず、むしろ増えていることから、支給名目が変更されたとしても異議を述べることをしなかったと解することができ、原告X2が異議を述べなかったからといって、それだけでは固定残業代について合意をしたと認めることはできない。
(2)また、被告は、平成18年8月の営業会議において被告代表者が原告X2ら従業員に対して、固定残業代について説明したと主張し、これに沿う証拠もあるが、仮に被告主張のような事実があったとしても、被告代表者が一方的に固定残業代の導入の方針を伝えたというだけであり、それだけで原告X2ら従業員が、残業をしたとしても、固定残業代を超えない限り、残業代が別途支払われることはないことについて同意をしたと認めることはできない。
(3)原告X1についても、被告に入社して正社員になった当時から支給額の一部が固定残業手当名目で支払われていることが認められるが、原告X1についても残業時間の多寡にかかわらず割増賃金が支払われることはなかったことも考慮すると、上記事実だけでは、原告X1が被告と労働契約を締結するに当たって、支給額の一部に固定残業代が含まれていることの説明を受け、これに同意をしたと認めることはできない。
(4)被告の従業員のBは、その証人尋問において、被告の東京支社では、本件就業規則を事務職員が就労している場所の後ろの棚に置いて周知している旨を証言するが、これを裏付ける証拠はない。また、B自身、実際にその棚に本件就業規則が保管されているのを見たことはなく、被告からその場所に本件就業規則が保管されていると聞いたこともないと証言している。
仮に上記営業会議において固定残業手当の導入を説明・告知したことがあったとしても、それだけでは本件就業規則について周知したとは認められない。
 上記のとおり、被告において東京支社の従業員が本件就業規則の内容を知り得ることができる措置をとっていたと認めるに足りる証拠がない以上、本件就業規則は周知性を欠いており、無効であるから、本件就業規則の固定残業代についての定めが、原告らと被告との間の労働契約の内容になっていたと認めることはできない。
 以上によれば、原告らと被告との間の労働契約において、固定残業手当を固定残業代として支払うことが契約の内容になっていたと認めることはできない。
(5)被告は、原告らに対する割増賃金の支払を怠っており、そのことについて正当な理由も認められないことからすると、被告には、原告らに対し、それぞれの未払割増賃金額と同額(ただし、原告X2については除籍期間が経過していない範囲に限る。)の付加金の支払を命じるのが相当である。