全 情 報

ID番号 09423
事件名 地位確認等請求事件(1669号)、地位保全等請求事件(2895号)
いわゆる事件名 公益財団法人埼玉県公園緑地協会・狭山市事件
争点 雇止めの有効性
事案概要 (1)原告X1、X2は、もともと財団法人C公社(以下「公社」という。)の職員として、公社が指定管理者となっていた被告狭山市が設置するD公園(以下「本件公園」という。)内のE動物園(以下「本件動物園」という。)において、飼育業務や事務に従事していたところ、平成24年度をもって被告狭山市が公社を廃止することとなり、指定管理者を公募した結果、被告協会(公益財団法人埼玉県公園緑地協会)が代表団体を務めるDパークマネジメントJV(以下「本件JV」という。)が、新たに指定管理者として指定されたため、平成25年4月1日、被告協会との間で、それぞれ期限の定めのある雇用契約を締結し、引き続き本件動物園で勤務を続けていたが、2回の契約更新を経て、平成30年3月31日、契約期間の満了によって、雇用契約が終了した(以下「本件雇止め」という。)。
ア 本件のうちのA事件は、原告X1が、主位的には、本件雇止めが無効であり、被告協会との雇用契約が労働契約法(以下「労契法」という。)19条2号によって継続していると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、被告協会に対し、平成30年4月以降の賃金及び賞与等の支払を求め、予備的には、被告狭山市が被告協会に対して原告X1の雇用を継続するための依頼や財政支援等の必要な措置を行うべき職務上の注意義務があるのにこれを怠ったことで、本件雇止めに至ったと主張して、被告狭山市に対し、国家賠償法1条1項による損害賠償請求権に基づき、損害金等の支払を求める事案である。
イ 本件のうちのB事件は、原告X2が、本件雇止めが無効であり、被告協会との間の雇用契約は労契法19条2号によって継続していると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、被告協会に対し、平成30年4月分から同年11月分までの賃金及び賞与等の支払を求める事案である。
(2)判決は、両事件とも雇止めを無効として、原告らの主張を認めた。
参照法条 労働契約法19条2号
体系項目 解雇 (民事)/ 14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)
裁判年月日 令和3年4月23日
裁判所名 さいたま地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)1669号 /平成30年(ワ)2895号
裁判結果 一部認容、一部棄却、予備的請求却下(1669号)、一部認容、一部棄却(2895号)
出典 労働判例1264号57頁
審級関係 控訴(後、和解)
評釈論文
判決理由 〔解雇 (民事)/ 14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)〕
(1)原告らは、公社との間で、期限の定めのない雇用契約を締結していたが、公社の廃止に伴い、原告らとの雇用契約が終了することを受け、本件組合を結成して団体交渉を行った結果、原告らを初めとする本件動物園に勤務する元公社職員のうち、勤務継続を希望する者については、新たな指定管理者に雇用を引き継ぐよう働きかけることで妥結したこと、その際、被告狭山市は、次々期以降の元公社職員の雇用について、指定管理者に対し、指定期間満了後の雇用継続につき誠意をもって対応するよう業務仕様書において要請することや、次々期以降の指定管理者の募集の際にも経験者の継続雇用を依頼することを本件協定で誓約していたものである。
(2)そして、被告協会が原告らに示した勤務条件の骨子案や本件特例要綱には、雇用期間を5年間とする記載があるものの、指定期間満了後の更新の有無については特段の記載がなく、本件各雇用契約に至るまでの間に、被告協会が、原告らに対し、指定期間満了後は、指定管理者の指定いかんにかかわらず雇用契約を更新しないとの意思を明確に示したことを認めるに足りる証拠がない。むしろ、当初、本件各雇用契約を締結した時点では、被告協会において、指定期間満了後の原告の処遇をどうするか方針が決まっていなかったようであり、原告らの雇用を継続する可能性は否定されていなかったというべきである。
 そうすると、原告らは、被告協会と本件各雇用契約を締結する時点では、当初の指定期間が満了した後も、少なくとも被告協会が本件公園の指定管理者の地位にある限り、特段の事情がない限り、被告狭山市の要請に従って、本件各雇用契約が更新され、継続して雇用されるとの期待を有していたということができる。
(3)被告狭山市は、本件協定どおりに、新たな指定管理者とする被告協会に対し、旧公社職員の継続的な雇用を要請してこれを一応受け容れさせていることから、当初の指定期間満了後も雇用が継続されるとの原告らの前記期待は、単なる一方的で主観的な願望ではなく、具体的な根拠がある合理的なものであったといえる。
 したがって、原告らは、本件各雇用契約を締結した時点で、少なくとも被告協会が本件公園の指定管理者である限り、平成30年4月1日以降も雇用契約が更新されることについて合理的な期待があったというべきである。
(4)2回目の更新の際、被告協会から今後の更新は行わない旨の説明を受け、契約書に不更新条項が含まれていたとしても、原告らは、本件各雇用契約を終了させる意思を有していないことはもとより、不更新条項が次期管理者の指定いかんにかかわらず、本件各雇用契約を更新しないという趣旨であることを原告らが理解していたとはいい難い。
 したがって、2回目の更新の際のPの説明や、雇用契約書の不更新条項の記載をもって、原告らの前記合理的な期待が直ちに失われたということはできない。
(5)本件各雇用契約では勤務上の問題がある場合、5年の経過を待たずに更新を拒絶することを否定していないところ、原告らが人事考課で低い評価を受けながらも、これまでの2回の更新機会に雇止めが検討された形跡がないことや、原告らが能力不足を理由とする懲戒処分を受けたことはないことなどの事情を踏まえると、被告協会においても、原告らの業務上の問題や能力不足が雇用契約の継続を困難とするほど著しいものであったとは評価していなかったことがうかがわれる。
 そうすると、原告らに能力不足の点があることは否めないとしても、これだけで本件雇止めに合理的な理由があるということはできない。
(6)被告協会は、原告らに対し多額の給与を支払い、人件費が高額となっていたことから、原告らの雇用継続を前提とした場合、コスト面を理由に次期指定管理者に指定されなかった可能性が高いとして、本件雇止めに客観的に合理的な理由があると主張する。
仮に人件費のコスト高が指定管理者の選定に何らかの影響を及ぼす事情であるとしても、被告協会において、コスト削減のために、本件雇止め以外の方策を検討した形跡がないことからすると、このことをもって本件雇止めに合理的な理由があるということはできない。