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ID番号 09426
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 ネオユニットほか事件
争点 解雇の手続、解雇権の濫用
事案概要 (1)本件は、障害者総合支援法に基づく指定障害福祉サービス事業所(以下「就労継続支援A型事業所」という。)としての指定を受けた「就労継続支援施設オークション≪仮名≫」(以下「O」という。)において勤務していた控訴人ら(※)が、Oを運営していた被控訴人会社及びその代表取締役である被控訴人Y1による控訴人らの解雇は無効であり、被控訴人らの不法行為(民法709条)に当たるほか、被控訴人Y1には任務懈怠(会社法429条1項)があったなどと主張して、被控訴人らに対し、逸失利益及び慰謝料等の損害賠償金等の連帯支払を求めた事案である。
(※)控訴人らは、Oにおいて就労継続支援を利用する障害者(「利用者」)及び利用者に対する支援の提供を行うOの従業員(「スタッフ」)である控訴人X2(サービス管理責任者兼管理者)、控訴人X1(生活支援員)であった。
(2)原審(札幌地裁)が、被控訴人らに対し、控訴人利用者ら1人につき損害賠償金5万5000円(慰謝料5万円及び弁護士費用5000円の合計額)等の連帯支払を求める限度で控訴人利用者らの請求を一部認容し、控訴人利用者らのその余の請求並びに控訴人X2及び同X1(以下「控訴人X2ら」という。)の請求をいずれも棄却したところ、控訴人らは敗訴部分を不服として控訴した(なお、原審においては、控訴人ら以外の4名のOの利用者も控訴人らと同旨の訴えを提起し、控訴人利用者らと同旨の判決(原判決)がされたが、上記4名の関係では当事者双方から控訴がなく原判決は確定した。)。
(3)控訴審判決は、控訴人らの逸失利益及び慰謝料等の損害賠償金等の請求を認めた。
参照法条 民法709条
労働契約法16条
体系項目 解雇 (民事)/ 4 解雇手続
裁判年月日 令和3年4月28日
裁判所名 札幌高
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ネ)310号
裁判結果 原判決一部変更、控訴一部棄却
出典 労働判例1254号28頁
賃金と社会保障1782号9頁
審級関係 上告、上告受理申立て(後、棄却、不受理)
評釈論文 西村武彦・賃金と社会保障1782号4~8頁2021年7月25日
判決理由 〔解雇 (民事)/ 4 解雇手続〕
(1)被控訴人会社においては、控訴人利用者らに対し、Oの閉鎖や利用者の退職に係る事情について丁寧に説明したり、十分な再就職の支援を行ったりすることなく、本件解雇について、控訴人利用者らの理解が得られたともいえないのであるし、Oの閉鎖及び本件解雇の決定からその実施までの時間が1か月程度にとどまったことについては、被控訴人会社の都合によるものと言わざるを得ないから、控訴人利用者らに対する解雇については、その解雇手続が相当であったとはいえず、控訴人利用者らの再就職の都合等も考慮した閉鎖時期を決定し、合意退職に応じてもらえるよう調整するなどの解雇回避のための努力が尽くされたともいえない。
(2)Oの閉鎖や本件解雇の経緯に関する被控訴人会社の説明内容について、控訴人X2らの理解が得られていたと評価することは困難であり、被控訴人会社において、本件解雇に際し、控訴人X2らに対し、十分な説明を尽くしたと認めることはできない。加えて、被控訴人会社は、控訴人X2らが被控訴人会社を退職する意向を示したと主張している一方で、合意退職の手続を経ることもなく一方的に控訴人X2らを解雇したものであるし、Oの閉鎖及び本件解雇に伴う利用者への対応は、そのほとんどを控訴人X2らスタッフが担っており、控訴人X2らの再就職に対する配慮がされたことも窺われない。したがって、控訴人X2らに対する解雇について、その手続が相当であったとはいえないし、控訴人X2らの再就職の都合等も考慮した閉鎖時期を決定し、合意退職に応じてもらえるよう調整するなどの解雇回避努力が尽くされたともいえない。
(3)控訴人らに対する本件解雇については、Oの閉鎖、これに伴う人員削減の必要性及び人選の合理性については肯定することができるものの、控訴人利用者ら及び控訴人X2らのいずれに対する解雇についても、その解雇手続は相当とはいえず、解雇を回避するための努力が尽くされていない。したがって、控訴人らに対する解雇は、いずれも客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上も不相当であって無効であると言わざるを得ない(控訴人利用者らの解雇については、やむを得ない事情があるとも認められない。)。
(4)〈1〉被控訴人会社においては、控訴人らに対する説明等の手続が相当であったとはいえず、解雇回避努力が尽くされたともいえず、その不備は重大であること、〈2〉被控訴人Y1らは、本件解雇と同時にOを閉鎖し、控訴人らが被控訴人会社において就労する意思を喪失させ、控訴人らの再就職を余儀なくさせたこと、〈3〉経緯等から本件解雇を行った被控訴人Y1に故意又は過失が認められることを踏まえると、本件解雇は控訴人らに対する不法行為に当たり、被控訴人らは、本件解雇によって控訴人らが受けた損害を賠償すべき責任を連帯して負担すべきものといえる。
(5)控訴人らが再就職に要した現実の期間に加え、再就職に通常要すると考えられる期間も考慮すると、控訴人X2については上記賃金額の4か月分に相当する98万円(=24万5000円×4月)を、控訴人X1については上記賃金額の5か月分に相当する42万5000円(=8万5000円×5月)を、控訴人番号1、2及び4については上記賃金額の6か月分に相当する37万9200円(=6万3200円×6月)を、控訴人番号3については上記賃金額の4か月分に相当する25万2800円(=6万3200円×4月)を、それぞれ本件解雇と相当因果関係のある逸失利益と認める。
さらに、本件解雇によって、控訴人X2らが被った精神的苦痛については、逸失利益の賠償により慰謝されるというべきであるが、控訴人利用者らが被った精神的苦痛については、逸失利益の賠償によって全てが慰謝されるとは認められず、上記逸失利益の賠償に加えて、控訴人利用者ら1人につき30万円の慰謝料請求を認めることとするのが相当である。