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ID番号 09427
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 株式会社まつりほか事件
争点 過労死に係る損害賠償、名義貸しの代表取締役の責任
事案概要 (1)本件は、亡Aの相続人である原告ら(亡Aの妻と長女)が、被告株式会社まつり(以下「被告会社」)のレストラン(以下「本件店舗」)において調理を担当する板前(料理長)として勤務していた従業員の亡Aが、被告会社における長期間の過重労働により、平成26年3月24日深夜に不整脈による心停止を発症して死亡したため、これにより損害を被った旨主張して、〈1〉被告会社に対しては債務不履行による損害賠償請求権に基づき、〈2〉被告会社の代表取締役であった被告Y(以下「被告Y」)に対しては債務不履行による損害賠償請求権又は役員等の損害賠償請求権(会社法429条1項)に基づき、連帯して、原告らに対する損害賠償金等の支払を事案である。
(2)判決は、原告らの主張を認め、被告会社には安全配慮義務違反に基づく損害賠償を、被告Yには亡Aの労働時間や労働内容を適切に管理していなかったことについて取締役として悪意又は重大な過失があったとして会社法429条1項に基づく損害賠償を、被告らに対し連帯して支払うよう命じた。
参照法条 労働契約法5条
会社法429条1項
体系項目 労働契約 (民事) / 労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任
裁判年月日 令和3年4月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ワ)29993号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1251号74頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文 中井崇・経営法曹212号58~67頁2022年6月
判決理由 〔労働契約 (民事) / 労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任〕
(1)本件店舗で勤務を開始した後、6か月間の長期にわたり継続的に、平均して1月当たり128時間を超える時間外労働をしていたものであり、これらの負荷が著しく大きいものであったと認められる。そして、他に亡Aが本件発症をした原因と考えられる事情も見当たらないのであるから、亡Aの死亡は、本件店舗における長時間労働により生じたものと推認するのが相当である。
(2)使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴い疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うというべきであり(最高裁平成10年(オ)第217号、第218号同12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号115頁参照)、本件においても、被告会社は、雇用者として、被告会社の業務に従事する亡Aが業務の遂行に伴い生命、健康を損なうことのないよう、亡Aが業務に従事する状況について労働時間や労働内容を把握し、必要に応じてこれを是正すべき措置をとる義務を負っていたというべきである。
被告会社は、遅くとも本件発症の約1か月前の平成26年2月22日頃には、亡Aの時間外労働時間について把握し、亡Aの時間外労働を制限するなどの方法により業務の負担を軽減すべき義務を負っていたというべきである。
 しかし、被告会社は、亡Aを含む従業員の健康診断を実施せず、その健康状態について何ら留意していなかった上、亡Aについてタイムカードを付けさせず、亡Aの労働時間を把握しないまま、同日以降の本件第1期間(平成26年2月22日から同年3月21日まで)においても亡Aに107時間55分もの長時間の時間外労働に従事させ、これにより亡Aについて本件発症に至らせたものであるから、亡Aに対する安全配慮義務に違反したというべきである。
(3)被告Yは、被告会社の代表取締役として、被告会社の業務全般を執行するに当たり、被告会社において労働者の労働時間が過度に長時間化するなどして労働者が業務過多の状況に陥らないようにするため、従業員の労働時間や労働内容を適切に把握し、必要に応じてこれを是正すべき措置を講ずべき善管注意義務を負っていたというべきであるところ、被告会社の業務執行を一切行わず、亡Aの労働時間や労働内容の把握や是正について何も行っていなかったのであるから、その職務を行うについて悪意又は重大な過失があり、これにより亡Aの損害を生じさせたというべきである。
 したがって、被告Yは、会社法429条1項に基づき、被告会社と連帯して、亡Aの死亡により生じた損害の賠償責任を負うというべきである。
(4)被告Yは、亡Cに名義貸しをしたものにすぎず、被告会社の取締役としての職務を行うことが予定されておらず、実際にも職務を行っていなかったから、被告Yの原告に対する重大な過失はないとも主張する。
被告会社の代表取締役への就任自体は有効に行われたものであるといわざるを得ず、そうである以上、被告Yが被告会社の代表取締役として第三者に負うべき一般的な善管注意義務を免れるものではない。仮に、被告Yが、被告会社の実質的な代表者であった亡Cから、被告会社の業務執行に関わる必要がないとの説明を受けていたり、被告会社から何らの報酬を得ていなかったりしたとしても、それは被告会社の内部的な取決めにすぎず、そのことから被告Yが被告会社の代表取締役として負うべき第三者に対する対外的な責任の内容が左右されることはない。