ID番号 | : | 09428 |
事件名 | : | 休業補償給付不支給処分取消、療養補償給付不支給処分取消請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 国・一宮労基署長(ティーエヌ製作所)事件 |
争点 | : | 負傷に起因する精神障害の業務起因性 |
事案概要 | : | (1) 控訴人(一審原告)は、平成24年10月17日、勤務先の工場内でオペレーター業務を行っていた際、原告の左顔面が同工場内の取出機のチャック板と成形機の間に挟まれるという事故(以下「本件事故」)に遭い、左眼を負傷したことから、一宮労働基準監督署長(以下「処分行政庁」。)に対し、以下のとおり、労災保険法に基づき、休業補償給付又は療養補償給付の支給を請求した。 ア 平成26年6月1日から同年10月31日までの期間、左眼の負傷の療養のため労働することができないことを理由とした休業補償給付請求 イ 心因反応(神経症性うつ病)を理由とした療養補償給付請求 ウ 平成28年3月1日から平成29年3月31日までの期間、心因反応(PTSD)の療養のため労働することができないことを理由とした休業補償給付請求 (2) 処分行政庁は、以下のとおり、前記(1)の各請求に対する処分(以下「本件各処分」という。)をした。 ア 前記(1)アのうち、平成26年6月1日から同年9月30日までの期間分について、同年10月31日付けで、同月1日から同月31日までの期間分について、同年11月28日付けで、それぞれ、通院日のみ休業補償給付を支給し、その余は不支給とする旨の処分(以下、同年10月31日付け処分を「本件処分1」、同年11月28日付け処分を「本件処分2」という。) イ 前記(1)イに対し、平成27年6月30日付けで不支給とする旨の処分(以下「本件処分3」という。) ウ 前記(1)ウに対し、平成29年12月20日付けで不支給とする旨の処分(以下「本件処分4」という。) (3) これに対し、控訴人(一審原告)が、被告に対し、本件各処分(本件処分1及び2については、その不支給部分)の取消しを求めた。 これに対し、令和2年7月6日の一審判決(名古屋地裁)は、控訴人(一審原告)の請求をいずれも棄却したため、控訴人(一審原告)が控訴したものである。 (4)控訴審判決は、控訴人の各請求のうち、本件処分1及び本件処分2の各不支給部分の取消しを求める請求は棄却したが、本件処分3及び本件処分4の取消しを求める請求は認容した。 |
参照法条 | : | 労災保険法7条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険/業務上・外認定 / (2) 業務起因性 |
裁判年月日 | : | 令和3年4月28日 |
裁判所名 | : | 名古屋高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和2年(行コ)33号 |
裁判結果 | : | 原判決一部変更、控訴一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1251号46頁 裁判所ウェブサイト掲載判例 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 確定 |
評釈論文 | : | 小西康之・ジュリスト1564号4~5頁2021年11月 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険/業務上・外認定 / (2) 業務起因性〕 (1)本件事故による相当強度な心理的負荷のみをもって、直ちに適応障害の発病の業務起因性を認めることはできない。しかしながら、控訴人は、以前のような仕事を続けることは到底不可能になるような左眼の負傷をしたものである。また、控訴人は、適応障害を発病した平成26年10月29日当時も療養の過程にあり、左眼矯正視力も同年4月17日の0.02から同年8月28日には30cm手動弁(編注:「手動弁」とは、検者の手掌を被検者の眼前で上下左右に動かし、動きの方向を弁別できる能力)まで悪化していたのであるから、その後の症状固定時には障害等級8級1号(一眼が失明し、又は一眼の視力が0.02以下になったもの)に該当するような重い後遺障害を残すことになると予想することができ、上記当時、左眼の角膜内皮障害による角膜混濁が増悪して、眼内の状態が非常に悪くなり、J医師にも違和感を訴えるなどしていたとみられることや、E医師にも複数回の手術を受けても左眼の視力が改善しないため不安を覚えるようになった旨訴えていたことからすると、左眼の負傷による心理的負荷は全体として極めて強度なものであったとみるべきである。 (2)本件事故による心理的負荷及び左眼の負傷による心理的負荷は、負傷後の疼痛及び視力の低下も含めれば、控訴人と同程度の年齢、経験を有する平均的労働者にとっても相当強度なものであったというべきであり、とりわけ視力の低下が本件事故から約2年後の発病当時も継続していた状況にあったことも総合的に評価すれば、右眼の視力の低下による心理的負荷を除いたとしても、本件事故と適応障害の発病との間の相当因果関係を認めるに足りる程度の強度なものであったと判断される。 (3)控訴人の本件事故前からの既往症であるうつ病及びアルコール依存症は、本件事故時点では、就労に支障がない程度の状態で安定し、ほぼ寛解状態にあったから、業務以外の心理的負荷及び個体側の要因により適応障害を発病したもの(認定基準の認定要件における除外事由)があると認めることはできない。そして、適応障害は平成26年10月29日時点で新たに発病した上記既往症とは異なる精神障害であって、本件事故による心理的負荷及び左眼の負傷による心理的負荷は平均的労働者にとっても強度なものであり、業務による強い心理的負荷があったといえるから、相当因果関係が認められるとの上記判断は左右されない。 (4)控訴人の精神障害(平成26年10月29日発病の適応障害)には業務起因性が認められないとの点のみを理由に、控訴人が精神障害のために労働することができない状態であったかどうか等の点については検討する必要がないとして、療養補償給付及び休業補償給付を全部不支給とした本件処分3及び本件処分4は、違法というほかなく、取消しを免れない(処分行政庁においては、上記精神障害と相当因果関係が認められる療養補償給付及び休業補償給付の額を改めて算定し、控訴人に支給する処分をすべきである。)。 |