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ID番号 09433
事件名 行政措置要求判定取消、国家賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 国・人事院(経済産業省職員)事件
争点 性同一性障害である職員に対するトイレ使用制限等の違法性
事案概要 (1) トランスジェンダー(Male to Female)であり、国家公務員である一審原告が、その所属する経済産業省(以下「経産省」という。)において女性用トイレの使用に関する制限を設けないこと等、人事院に対して勤務条件に関する行政措置を要求したが、いずれの要求も認められないとの判定を受けたことから、本件判定がいずれも違法であるとして、本件判定に係る処分の取消しを求めるとともに(第一事件)、女性用トイレの使用制限を受けていること等に関し、経産省の職員らがその職務上尽くすべき注意義務を怠ったことにより損害を被ったものと主張して、国に対し、慰謝料等の支払を求めた(第二事件)事案である。
(2) 原審(東京地裁)は、経産省が原告に対して女性用トイレの使用を認めない処遇(以下「本件トイレに係る処遇」という。)を継続したこと及び経産省の職員らによる原告に対する発言等の一部について、国家賠償法上、違法の評価を免れないと判示して、原告の損害賠償請求のうち慰謝料の支払いを命じた。これに対し、一審原告、一審被告がこれを不服としてそれぞれ控訴した。なお、一審原告は、当審において、A調査官が一審原告のプライバシー情報を暴露したと主張して、慰謝料請求額を50万円増額し、全体の請求額を1702万6219円に拡張した。
(3) 控訴審判決は、原判決を変更して、第1事件に係る一審原告の請求を棄却し、第2事件に係る一審被告に対する請求を11万円及び遅延損害金の支払を認める限度でこれを認容し、それ以外の一審原告の請求等を棄却した。
参照法条 日本国憲法14条
国家公務員法55条
国家公務員法58条
国家公務員法86条
国家公務員法87条
国家公務員法98条
国家賠償法1条
事務所衛生基準規則
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律2条
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条
体系項目 労基法の基本原則 (民事)/国に対する損害賠償請求
労基法の基本原則 (民事)/均等待遇/セクシャル・ハラスメント
裁判年月日 令和3年5月27日
裁判所名 東京高裁
裁判形式 判決
事件番号 令和2年(行コ)45号
裁判結果 原判決一部変更、控訴一部棄却、拡張請求棄却
出典 判例時報2528号16頁
労働判例1254号5頁
労働経済判例速報2463号3頁
労働法律旬報1994号36頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 上告、上告受理申立て
評釈論文 竹内(奧野)寿・ジュリスト1562号4~5頁2021年9月
立石結夏・労働法律旬報1994号22~26頁2021年10月25日
岡田正則・法律時報93巻12号4~6頁2021年11月
榎本英紀・労働経済判例速報2463号2頁2021年12月10日
川端小織・経営法曹210号122~126頁2021年12月
山崎文夫・労働法律旬報2001号28~34頁2022年2月10日
石崎由希子(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1569号130~133頁2022年4月
島田裕子(労働判例研究会)・法律時報94巻6号120~123頁2022年6月
内藤忍・令和3年度重要判例解説(ジュリスト臨時増刊1570)184~185頁2022年4月
岡田高嘉・速報判例解説〔30〕――新・判例解説Watch〔2022年4月〕(法学セミナー増刊)11~14頁2022年4月
横山浩之・労働法律旬報2017号32~43頁2022年10月10日
長谷川俊明・国際商事法務50巻12号1578頁2022年12月
判決理由 〔労基法の基本原則 (民事)/国に対する損害賠償請求〕
〔労基法の基本原則 (民事)/均等待遇/セクシャル・ハラスメント〕
1 第一事件について
 経産省は、一審原告が、平成21年10月23日には、一審原告から近い将来に性別適合手術を受けることを希望しており、そのためには職場での女性への性別移行も必要であるとの説明を受けて、一審原告の希望や一審原告の主治医であるD医師の意見も勘案した上で、対応方針案を策定し本件トイレに係る処遇を実施したのち、一審原告が性別適合手術を受けていない理由を確認しつつ、一審原告が戸籍上の性別変更をしないまま異動した場合の異動先における女性用トイレの使用等に関する経産省としての考え方を説明していたのであって、一審原告が経産省に復職した平成26年4月7日以降現在まで、本件トイレに係る処遇を維持していることについて、経産省において、一審原告との関係において、公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認め得るような事情があるとは認め難く、本件トイレに係る処遇につき、国家賠償法第1条第1項の違法性があるとの一審原告の主張を採用することはできない。
2 第二事件について
 B室長の発言は、「なかなか手術を受けないんだったら、もう男に戻ってはどうか」というものであって、一審原告の本件各要望事項に対する経産省の対応方針から明らかに逸脱しており、1回限りの発言であるか否かによって評価が左右されるものとはいい難い。したがって、上記のB室長の発言は、国家賠償法第1条第1項の違法性を基礎付けるような、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為を行ったものというべきであり、同発言は国家賠償法第1条第1項にいう違法性が認められるというべきである。