全 情 報

ID番号 09434
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 エイブル保証事件
争点 諭旨解雇による退職金の不支給
事案概要 (1)本件は、被告(不動産の賃貸借及び売買、交換のあっせん等を目的とする株式会社)との間に労働契約を締結し、大阪支店施設管理課の責任者として勤務していた原告が、自らが懇意にする外国人女性ホステスの就労ビザ更新のために、被告から建物管理業務等を受注していたCに対し、職務を利用して、在職証明書の偽造を依頼して、作成させたこと(「処分事由〈1〉」)、及びCに対し、職務を利用して、9回にわたりクラブへの同行を要望し、費用をCに支払わせるなどしたこと(「処分事由〈2〉」)を理由に、原告に対し諭旨退職処分を行い、退職金を不支給にしたことに対し、諭旨退職処分の無効であるとして退職金等の支給を求める事案である。
(2)判決は、諭旨退職処分は有効と認めたが、退職金については原告に対し規定の半額の支払いを認めた。
参照法条 労働基準法24条
体系項目 賃金 (民事) / 退職金/ (3) 懲戒等の際の支給制限
裁判年月日 令和3年6月2日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ワ)23866号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金 (民事) / 退職金/ (3) 懲戒等の際の支給制限〕
(1)処分事由〈1〉及び処分事由〈2〉は、いずれも原告が職務を利用して自己又は他人の利益を図ったものであり、相応に悪質であって、情状に酌むべき事由があるとはいえない。本件諭旨退職処分にあたっては、被告は、Cに対する調査を行い、原告と面談を行い、原告の弁明を聴取していることからすれば、手続的相当性も認められる。したがって、原告は、被告を有効に諭旨退職したものといえるから、被告の退職金規程第6条(6)の諭旨退職したときに該当する。
(2)本件諭旨退職処分の処分事由となった本件就業規則第82条(3)に該当する行為が複数認められることも考慮すると、本件就業規則第83条(1)の懲戒解雇事由に相当する事由があるといえる。
(3)被告の就業規則第82条(3)の諭旨退職処分事由に基づき諭旨退職したこと、就業規則第83条(1)の懲戒解雇事由に相当する事由があることが認められ、原告には、被告の退職金規程第6条(1)、(2)及び(6)の退職金の不支給事由がある。
(4)原告の行為のうち処分事由〈1〉にかかる行為は、上記のとおり、会社の社会的評価を毀損しかねないものであって、その情状は悪い。また、原告には、処分事由〈2〉も認められ、被告の業務内容及び被告における原告の地位等に照らすと、労働者のそれまでの勤続の功を一定程度減殺する悪質性があることは否定できない。他方、処分事由〈1〉にかかる行為について、作成された内容虚偽の在留資格証明書は実際に提出されることはなかったこと、処分事由〈2〉は半年間にわたり約55万円の飲食費の饗応を受けたという内容であり、その期間は、比較的短期間であり、その金額が非常に高額のものであるとまではいえないことを考慮すると、労働者のそれまでの勤続の功を全て抹消するほどの著しい背信行為があったとまではいうことはできない。
 そうすると、被告の退職金規程第3条(退職金の支給条件を定める条項)及び第6条(退職金を全額不支給とする条項)は、原告の退職金の5割を超えて不支給とする点で、一部無効であると解すべきであり、原告は、原告に支給されるべきであった退職金330万円の5割である165万円については、退職金請求権を失わない。