全 情 報

ID番号 09435
事件名 雇用契約上の地位確認等請求事件
いわゆる事件名 ディーエイチシー事件
争点 降格処分と賃金の減額
事案概要 (1)本件は、化粧品の輸出及び製造販売のほか、航空運送事業、航空機使用事業、受託運航及び格納事業等を目的とする被告(株式会社ディーエイチシー)が、被告の事業部部長員であった原告に対しタイムカードの改ざんを理由として、平成30年5月1日付けで、本件事業部の部長から次長に降格とする懲戒処分(本件降格)とし、原告の賃金月額124万円を90万円に減給(基本給104万円を75万円、役付手当20万円を15万円に減給)した(本件減給)。その後、反省の態度がみられないこと、パワーハラスメントがあることなどを理由に同年7月2日付けで懲戒解雇(本件懲戒解雇)した。
 そのため、原告は被告に対し、〈1〉本件降格及び本件減給並びに本件懲戒解雇がいずれも無効であるとして、本件減給前の賃金月額124万円で計算した未払賃金合計1984万円、平成30年12月及び令和元年6月に208万円ずつ支給されるはずであった未払賞与合計416万円等の支払、〈2〉退職金等の支払、〈3〉本件懲戒解雇が違法であるとして、不法行為に基づき、損害賠償金110万円(慰謝料100万円と弁護士費用10万円の合計)等の支払、〈4〉予備的請求として、本件懲戒解雇が違法であるとして、不法行為に基づき、損害賠償金等の支払を求める事案である。
(2)判決は、〈1〉については、本件降格は有効として役付手当の減額を認めたが、基本給の減額は認めず、賞与の支払いについては支給根拠がないとして認めず、〈2〉については、本件懲戒解雇は無効として退職金の支払請求を認容した。
参照法条 労働契約法15条
労働契約法16条
体系項目 懲戒・懲戒解雇/ 懲戒権の根拠
懲戒・懲戒解雇/ 懲戒権の濫用
裁判年月日 令和3年6月23日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)35424号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇/ 懲戒権の濫用〕
(1)本来、部下らに規則を守らせるべき本件事業部長である原告自らが部下に代行打刻を行わせていたこと、本件事業部の他の従業員らにも同様の代行打刻がみられ、被告として本件事業部内の規律を正す必要があったことも考慮すれば、後に判示する原告の不利益に鑑みても、被告が本件降格を行ったことは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとはいえず、本件降格が懲戒権の濫用として無効となるものとは認められない。
〔懲戒・懲戒解雇/ 懲戒権の根拠〕
(2)本件降格が有効であるとしても、本件減給については別途労働契約上の根拠が必要であるところ、役付手当については、賃金規程において、部長は月額20万円、次長は月額15万円と明確に定められているから、本件降格に伴い、賃金規程に従って役付手当を減額したことは、有効である。
 他方、基本給については、原被告間の雇用契約書にはその減額の根拠とすべき規定はなく、賃金規程にも、第3条に雇入れの際の初任給の決定に関する規定があるのみで、雇用継続中の基本給の減額を基礎づける規定は見当たらない。そうすると、本件減給のうち基本給の減額については、労働契約上の根拠なくされたものといわざるを得ず、これに対する原告の同意も得られていない以上、無効といわざるを得ない。
〔懲戒・懲戒解雇/ 懲戒権の濫用〕
(3)被告がるる主張するところを考慮しても、被告が本件懲戒解雇の理由として挙げた事情は、いずれも懲戒解雇理由となり得ないか、仮になり得るとしてもこれを重視することが相当とはいえないものであり、本件懲戒解雇前に前記懲戒事由に関する原告の言い分を聴取するなどの手続を経ていないことも踏まえれば、本件懲戒解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、懲戒権の濫用として無効であるというべきである。
(4)本件減給のうち役付手当の減額は有効である一方、基本給の減額は無効であるから、本件懲戒解雇時の原告の給与は、月額119万円(基本給104万円、役付手当15万円)である。賞与については、賃金規程上、「会社の業績、従業員の勤務成績等を勘案して賞与を支給する」と規定されているのみで具体的な支給基準が存在せず、原告に具体的な請求権が発生しているとは認められないため、原告による未払賞与の請求は理由がない。
(5)本件懲戒解雇は無効であり、原告は令和元年11月20日に被告を定年退職したこととなるところ、被告の上記定年退職日において有効な新退職金規程によれば、原告の退職金は以下のとおり算定される。
(6)本件全証拠に照らしても、前判示の未払賃金等以上に、原告に本件懲戒解雇と相当因果関係のある損害が発生したと認めるに足りる証拠はないから、原告の不法行為に基づく損害賠償請求は(予備的請求も含めて)理由がない。