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ID番号 09440
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 Zemax Japan事件
争点 中途採用者の能力不足による普通解雇
事案概要 (1)被告(Zemax Japan株式会社)は、世界各国に子会社を持つ米国所在のゼマックス合同会社(以下「米国ゼマックス社」という。)が平成28年5月31日に設立した子会社であり、米国ゼマックス社が開発した物理系ソフトウェア(光学設計解析ソフトウェア等)の販売及び顧客に対する技術的サポート(テクニカルサポート)等を業務とする株式会社であり、原告は被告との間で労働契約を締結し、平成28年10月3日から、被告においては唯一のエンジニアとして、顧客からの技術的な質問に対してメールで回答するテクニカルサポート業務などを担当していた。被告代表者は、平成29年3月8日、原告を会議室に呼び、原告に対し、同日付の解雇通知書を交付し、同日、即時解雇する旨の意思表示をした。本件解雇通知書には、「労働能力もしくは能率が甚だしく低く、または甚だしく職務怠慢であり勤務に耐えないと認められたとき」に該当する旨記載されていた。また、解雇予告手当として72万1830円を支払う旨記載されていた。
 これに対し、原告が、被告による解雇は無効であるとして、労働契約に基づき、〈1〉労働契約上の地位確認、〈2〉未払月額賃金及び未払賞与等の支払を求める事案である。 (2)判決は、解雇は有効として、原告の請求を棄却した。
参照法条 労働契約法16条
民法627条1項
体系項目 解雇 (民事) /解雇事由/ (3) 職務能力・技量
裁判年月日 令和3年7月8日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ワ)24264号
裁判結果 棄却
出典 労働経済判例速報2467号18頁
D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇 (民事) /解雇事由/ (3) 職務能力・技量〕
(1)本件労働契約締結後本件解雇に至るまでの間、被告には就業規則が存在しなかったものの、就業規則が存在しない場合でも、民法627条1項本文に基づく解約の申入れとして普通解雇をすることが可能である。
(2)解雇時に示された解雇理由に挙げられていない事実であっても、解雇の意思表示の時点までに客観的に存在した事実であれば、当該事実は解雇の理由となり得ると解するのが相当であるから、本件解雇通知書に記載された具体的な事情の有無及び程度に加えて、本件において被告が主張する本件解雇に至った経緯を総合的に考慮して、本件解雇が無効か否かを判断するのが相当である。
(3)原告のエンジニアリングサービス業務における回答の質及び件数並びにセミナー講師担当前後の回答担当の可否について、原告の能力又は能率が被告から求められていたものに比べて一定程度低かったとは認められるが、これらのみをもって直ちに労働能力又は能率が甚だしく低いとか甚だしく職務怠慢であるとまでは評価しがたい。
 しかしながら、これらの原告の能力又は能率が一定程度低い点については、原告がこれを受け止め改善する意思及び姿勢を示していなければ改善の余地がないところ、原告は被告代表者から原告の業務環境等改善のために業務遂行状況を確認するための協力を求められても真摯な対応をせず、むしろ被告代表者に対しその指示に従わない姿勢を示し、被告で勤務を続けることについても積極的な姿勢を示さなかったのであるから、原告と被告の間においておよそ適切なコミュニケーションを図ることが困難な状況であったといえ、そうである以上改善可能性がなかったと認められる点を併せ考えると、「労働能力もしくは能率が甚だしく低く、または甚だしく職務怠慢であり勤務に耐えないと認められたとき」に該当するといえるというべきであり、本件解雇が客観的合理的理由を欠くものであるとは認められない。
 そして、このような原告の態度に加え、本件労働契約は被告が原告を即戦力として中途採用したものであることに照らせば、被告が原告に対して何らかの処分等を経ず、比較的短い期間で解雇を選択したことについて、社会通念上不相当であったとはいえない。
 以上によれば、本件解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものとはいえず、その権利を濫用したものとして本件解雇が無効であるとの原告の主張には理由がなく、原告の請求に理由はない。