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ID番号 09441
事件名 賃金支払請求事件(1927号)、立替金返還反訴請求事件(3273号)
いわゆる事件名 Y商店事件
争点 休職期間満了による退職、他に就職したことを理由とする解雇
事案概要 (1)本訴は、被告(反訴原告。以下「被告」という。)である有限会社Y商店の従業員として稼働していた原告(反訴被告)ら(以下「原告ら」という。)が、それぞれ適応障害等を発症したとして、原告(反訴被告)X1は平成29年11月2日から、原告(反訴被告)X2は同年9月28日から休職していたが、被告が、主位的に、原告X1につき平成30年8月2日付け、原告X2につき同年6月28日付けで休職期間満了による退職扱いをし(以下「本件各退職扱い」という。)、また、予備的に、詐病による休職、他での就労を理由として原告らにつき令和元年10月30日付けで解雇するとの意思表示(以下「本件各解雇」という。)をした。このため、原告らが、被告に対し、本件各退職扱い及び本件各解雇はいずれも無効であると主張して、〈1〉労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、〈2〉労働契約に基づき、原告らが復職を申し出た平成31年2月分以降の未払賃金等の支払を求めている事案である。
 反訴は、被告が、原告らが休職を開始して以降、原告らの社会保険料等を立て替えて支払ってきたとして、原告らに対し、不当利得に基づき、それぞれ立替金相当額の利得金等の支払を求めている事案である。
(2)判決は、本訴について、休職期間の満了による退職及び解雇を認めず、原告らが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と被告に対し原告らに対する未払賃金の支払いを命じ、反訴について被告の請求を棄却した。
参照法条 労働契約法16条
体系項目 休職/ 休職の終了・満了
解雇(民事)/ 解雇事由/ (18) 二重就職・兼業・アルバイト
裁判年月日 令和3年8月6日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ワ)1927号 /令和2年(ワ)3273号
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却(1927号)、棄却(3273号)
出典 労働判例1252号33頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔休職/ 休職の終了・満了〕
(1)本件就業規則17条1号は、休職事由の一つとして、文言上、「業務上の傷病により欠勤し3カ月を経過しても治癒しないとき(療養休職)」と規定している。一方で、本件訴訟において、原告らは、原告らの各休職事由につき、「業務上の傷病」であるとは主張しておらず、「業務外の傷病」として取り扱われることについて当事者間に争いはない。
 被告は、労働基準法上、業務上の傷病により休職中の従業員を退職させることはできないから(同法19条)、本件就業規則17条1号に「業務上の」とあるのは明白な誤記であり、正しくは「業務外の」であるとして、原告らに同号が適用されると主張する。
 確かに、業務上の傷病の場合に休職中の従業員を解雇することは労働基準法19条に反し、強行法規違反として無効の規定となるから、本件就業規則17条1号に「業務上の」と記載されているのは、同規則作成時において、何らかの誤解等があった可能性は否定しきれない。また、一般に、業務外の傷病に対する休職制度は、解雇猶予の目的を持つものであるから、本件就業規則17条1号を無効とはせずに、「業務外の傷病」であると解釈して労働者に適用することは、通常は労働者の利益に働く解釈であると考えられる。
 しかしながら、本件においては、上記規定による休職期間満了後も引き続き被告から休職扱いを受けてきた原告らが、上記休職期間満了により既に自然退職となっていたか否かが争われている。このような場面において、労働者の身分の喪失にも関わる上記規定を、文言と正反対の意味に読み替えた上で労働者の不利に適用することは、労働者保護の見地から労働者の権利義務を明確化するために制定される就業規則の性質に照らし、採用し難い解釈であるといわざるを得ない。
 したがって、本件就業規則17条1号を「業務外の傷病」による休職規定であるとして、これを原告らに適用することはできないというべきである。
 原告らについて、本件就業規則17条1号の適用はないから、被告の主張する休職期間満了による本件各退職扱いは無効である。
(2)本件就業規則17条(休職事由)には、「その他特別の事情があり、会社が休職を相当と認めたとき(特別休職)」(同条6号)との規定があり、本件はこれに該当するものと考えられる。
 被告が本件就業規則17条6号による休職扱いをやめる前に、原告らは、復職可能な状態になっていたから、同号を前提にして退職扱いすることも認められない。
〔解雇(民事)/ 解雇事由/ (18) 二重就職・兼業・アルバイト〕
(3)原告らの傷病の発症の経緯は、一応理解可能なものであるといえる。そして、原告らは、実際に医師の診断を受け、定期的に通院し、カウンセリングや投薬治療を受けている。原告らの傷病の発症の契機とされる出来事の心理的負荷がそれほど強いものとは思われず、その負荷の程度に比して治療期間がかなり長期に及んでいるとしても、そのことをもって、原告らの症状の訴えが詐病であるとまでは認めるに足りないというべきである。
 以上によれば、原告らが詐病により休職したことを解雇事由とする被告の解雇の主張は認められない。
(4)原告らの各行為は、いずれも会社の承認なく在職中に他に就職したものであるから、本件就業規則63条5号及び23条9号の解雇事由に該当する。
 原告X1は、被告から就労を拒否される中、生活の維持のために他社に就職したものと認められ、また、被告の就労拒否は理由がないものである。以上によれば、原告X1が被告の承認なく他社に就労したことは本件就業規則上の解雇事由には該当するものの、本件の具体的事情の下でこれを理由に解雇することは著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができず、解雇権の濫用として無効である。
 これらの就労については、原告X2が、被告から就労を拒否される中、生活の維持のためであったものと認められ、また、被告の就労拒否は理由がないものである。以上によれば、原告X2が被告の承認なく民泊営業を開始したり、他社に就労したりしたことは本件就業規則上の解雇事由には該当するものの、本件の具体的事情の下でこれを理由に解雇することは著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができず、解雇権の濫用として無効である。