ID番号 | : | 09442 |
事件名 | : | 未払い賃金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | シーエーシー事件 |
争点 | : | 降格処分と不法行為 |
事案概要 | : | (1)本件は、被告(株式会社シーエーシー)にサービスプロデューサーとして勤務していた原告が、平成28年1月にサービスプロデューサーからチーフプロジェクトマネージャーに降格(以下「本件第一降格」という。)、次いで1か月後に平成28年2月チーフプロジェクトマネージャーから役職がない者に降格(以下「本件第二降格」という。)されたこと、及び降格に伴う減給(本件第一降格では、役職給を7万円から3万5000円に減額、本件第二降格では、役職給を3万5000円から0円に減額。いずれも基本給である職責給53万0200円は減額なし。)に関し、当該各降格はいずれも無効であるとして、賃金支払請求権に基づき平成29年6月分から令和元年8月分までの減給された差額賃金189万円等の支払を求めた上で、当該各降格が違法であるとして、不法行為に基づく損害賠償請求権に差額賃金84万円に相当する損害および慰謝料等の支払を求め、さらに、原告は本件各降格によりやむなく退職に至ったもので会社都合退職に当たるとして、退職金規程に基づき会社都合による退職金と自己都合による退職金との差額等の支払を求め事案である。 (2)判決は、いずれの降格処分も無効として減額分の賃金の支払いと第二降格処分が不法行為に当たるとして30万円の慰謝料等の支払いを被告に命じ、退職についての原告の請求は棄却した。 |
参照法条 | : | 民法1条3項 労働契約法3条5項 労働契約法8条 |
体系項目 | : | 労働契約 (民事)/ 人事権/ (1) 降格 |
裁判年月日 | : | 令和3年8月17日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和1年(ワ)31690号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約 (民事)/ 人事権/ (1) 降格〕 (1)原告が営業向きでないことを認めることはできないところ、原告を降格させてまで他の部門の者をサービスプロデューサーに交代させる必要性を認めるに足りる証拠はない。 そして、原告の能力等については、営業向きでないことを認めることはできないし、被告の社内において原告について否定的な評価がされたことを認めるに足りる証拠もない。 そして、本件第一降格によって、原告は、月額賃金60万0200円のうち3万5000円という約5.8%の減額を受けたことになるが、これは必ずしも小さな減額幅ではないといえる。 以上の事情を総合考慮すると、本件第一降格は、人事権の濫用に当たり無効である。 (2)被告は、原告が、担当した田辺三菱製薬の社宅業務につき、見積りを上長へ報告せず、所定の社内承認を得ることもなく顧客に提示するなどの問題が生じたため、チーフプロジェクトマネージャーとしての役割を十分に果たしていないと判断し、本件第二降格を行った旨主張する。 しかし、被告の前記主張に沿う証拠はないし、そもそも本件第一降格から本件第二評価までの期間はわずか1か月でしかないところ、これはチーフプロジェクトマネージャーとしての役割を十分に果たしていないと判断するのには短すぎるというほかない。 そして、原告の能力等については、営業向きでないことを認めることはできないし、被告の社内において原告について否定的な評価がされたことを認めるに足りる証拠もない。 そして、本件第二降格によって、原告は、月額賃金56万5200円のうち3万5000円という約6.2%の減額を受けたことになるが、これは必ずしも小さな減額幅ではないといえる。 以上の事情を総合考慮すると、本件第二降格は、人事権の濫用に当たり無効である。 (3)被告は、賃金減額を伴う本件第一降格を行った後わずか1か月の後に、賃金減額を伴う本件第二降格を行っており、賃金減額を伴う降格を行うにつき明らかに慎重さを欠くものというほかなく、被告が有する広範な人事権を考慮しても、少なくとも過失があるものといえる。本件第二降格は、原告に対する不法行為に当たる。 原告は、本件第一降格及び本件第二降格により精神的苦痛を受け、食欲不振等の症状が出て、本件第二降格から約1か月が経過した平成28年2月29日、Eメンタルクリニックを受診し、その後、月1回程度通院し、適応障害の診断を受けたこと、家庭不和にも陥ったことが認められる。原告が受けた精神的苦痛を考慮すると慰謝料は30万円と認めるのが相当である。 (4)原告は、本件第二降格の後3年7か月間もの間被告における勤務を継続していたことなどに照らせば、原告が退職したのは最終的には原告個人の判断に基づくものというほかない。原告の退職が会社都合による退職に当たるということはできない。 |