全 情 報

ID番号 09443
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 広島精研工業事件
争点 降格の適法性、パワーハラスメント
事案概要 (1)本件は、自動車部品のプレス加工、溶接加工、塗装、組立、射出成形等を事業内容とする被告(広島精研工業株式会社)に雇用され、A3課長として月額6万円の役付手当の支給を受けていた原告が、平社員に降格されて平成22年3月分以降は役付手当が支給されなくなり、また、月額6万6000円が支給されていた能率手当が平成27年1月分以降順次減額されたことにつき、上記の降格等の措置はいずれも無効であると主張して、被告に対し、〈1〉A3課長としての労働契約上の地位の確認並びに〈2〉従前支給されていた金額と同額の役付手当及び能率手当の支払を受ける地位にあることの確認を求めるとともに、〈3〉未払分及び本判決確定までの将来分の上記各手当の支払を求め、さらに、被告の前社長らによるパワーハラスメント等により精神的苦痛を受けたと主張して、被告に対し、〈4〉労働契約上の債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償を求める事案である。
(2)判決は、〈1〉については、課長としての労働契約上の地位を有することを確認するとともに、〈3〉については、役付き手当に係る不払い分の支給及び〈4〉については、安全配慮義務違反)に基づく損害賠償110万円等の支払いをそれぞれ命じ、それ以外の原告の請求については棄却した。
参照法条 労働契約法3条5項
労働契約法5条
体系項目 労働契約 (民事)/ 人事権/ (1) 降格
労働契約 (民事)/ 労働契約上の権利義務 / (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任
裁判年月日 令和3年8月30日
裁判所名 広島地
裁判形式 判決
事件番号 令和31年(ワ)189号
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却
出典 労働判例1256号5頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔労働契約 (民事)/ 人事権/ (1) 降格〕
(1)被告が本件降格の理由として主張する事情は、安全、品質に関する成績の不良を除き、そもそもその存在を認めることができないか、又は、そのような事情があったとしても、これをもって原告に課長としての能力や適性が欠如していると評価することが相当でないものであるといわざるを得ない。
 他方、労働災害や不良品の社外流出の発生は、A1課長であった原告にもその責任の一端があることは否定できず、この点において、原告を課長から降格させる理由となり得るものとも考えられる。しかし、被告は、平成19年及び平成20年にこれらの事態が生じた後も、原告を直ちに課長から降格させることはせず、平成21年1月にA3課長に異動させている。そうすると、A1課における労働災害等の発生は、被告において、原告を直ちに課長から降格させなければならないほどに重大な事情としては捉えられていなかったものと考えられる。
(2)少なくとも本件降格がされた平成22年の時点において、安全、品質に関する成績の不良という点に関し、原告に課長としての能力や適性の欠如が見られたとか、労働災害や不良品の社外流出の発生を防止するために原告をA3課長から降格させる業務上、組織上の必要性が高かったということはできない。
仮に、安全、品質に関する成績の不良という観点から原告を課長の地位にとどめておくことが相当でなかったといい得るとしても、平社員まで大幅に降格させる必要性があったとは認め難い。
(3)被告の就業規則上、課長には6万円以上の役付手当が支給される一方、平社員には役付手当は支給されないこととなっているため、本件降格は、原告に対し、必然的に役付手当の不支給という経済的な不利益を及ぼすこととなるところ、これにより、原告の賃金は約15%もの減額となることからすると、その不利益の程度は重大であるというべきである。
(4)以上によれば、本件降格は、被告側における業務上、組織上の必要性に乏しく、また、原告が課長の地位にふさわしい能力や適性を欠いているとも認め難いにもかかわらず、原告を課長から平社員へと大幅に降格させ、これに伴い原告に重大な経済的不利益を与えるものであるから、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用に当たるものというほかなく、違法、無効であるというべきである。
(5)就業規則上の定めを前提に、その運用の変更として能率手当を減額することが、直ちに違法とはいえないというべきである。
本件減額は、旧経営陣の下で適切な査定に基づく能率手当の支給が行われておらず、従業員間に不公平があったため、これを是正する一環として行われたものであることが認められ、これが不当な目的をもってされたものであるともいえない。
 よって、本件減額が違法、無効であるとする原告の主張は採用できない。
〔労働契約 (民事)/ 労働契約上の権利義務 / (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任〕
(6)被告は、原告に対し、違法に本件降格をして経済的な不利益を与えるなどしている上、合理的な理由なく残業を許可しなかったり、約4か月半にわたり仕事を与えなかったりする不当な取扱いをし、さらに、社長からの厳しい叱責により原告をうつ状態に陥らせて自宅療養を余儀なくさせたもので、これらにより原告には継続的に精神的苦痛が生じているというべきであるから、このことについて、被告には、原告に対する安全配慮義務違反があるというべきである。