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ID番号 09444
事件名 未払賃金請求事件
いわゆる事件名 Hプロジェクト事件
争点 芸能人の労働者性
事案概要 (1)本件は、亡Z(以下「Z」という。)の相続人である原告ら(Zの両親)が、Zとアイドル活動等に関する専属マネジメント契約等を締結していた被告(Hプロジェクト株式会社)に対し、Zは労働基準法上の労働者であると主張し、Zが上記契約等に基づいて従事した販売応援業務に対する対価として支払われた報酬額は、最低賃金法所定の最低賃金額を下回るとして、労働契約に基づく賃金請求権として、上記報酬額と最低賃金法所定の最低賃金額との差額等の支払を求める事案である。
(2)判決は、Zの労働基準法上の労働者性を否定し、原告らの請求を棄却した。
参照法条 労働基準法9条
体系項目 労基法の基本原則 (民事)/ 労働者/ (1) 労働者の概念
裁判年月日 令和3年9月7日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ワ)23219号
裁判結果 棄却
出典 労働判例1263号29頁
労働経済判例速報2469号3頁
審級関係 令和4年2月16日控訴棄却
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則 (民事)/ 労働者/ (1) 労働者の概念〕
(1)原告らは、本件契約において、Zが被告の専属タレントとして、〈1〉被告の指揮命令下で、被告の指定する場所、日時及び機会に活動することとされ、被告の承認を得なければ一切の芸能活動を行うことができないものとされ、〈2〉Zの提供した役務による成果は全て被告に帰属し、その中から、Zは自己の提供した役務に応じて報酬を得ることになっているから、Zは労働基準法上の労働者に当たるとも主張する。
 しかしながら、〈1〉については、Zには、被告が主催するなどした本件グループの活動に参加するか否かについて諾否の自由があったものであり、被告に従属し、その指揮命令下で労務を提供していたとは認められない。また、〈2〉についても、Zに支払われていた報酬の労務対償性は弱い。したがって、Zが提供する役務による成果が全て被告に帰属するとされていることなど、原告が指摘するその他の事情を考慮しても、本件契約の内容から、Zが労働基準法上の労働者に当たると認めることはできない。
(2)原告らは、本件契約等において、本件グループのメンバーに対する罰金やペナルティの定めがあることも指摘するが、関係各証拠を検討しても、本件グループのメンバーが被告の指定するイベント等の活動に参加しなかったことを理由に罰金が課されたことがあったとは認められない。
(3)本件グループのメンバーに支払われていた報酬は、本件グループのメンバーの励みとなるように、その活動によって上がった収益の一部を分配するものとしての性質が強く、メンバーの労務に対する対償としての性質は弱いというべきである。また、販売応援に対する報酬は、1回当たり2000円又は3000円を支払うというものであり、原告が指摘するとおり、日当のような外形を有しているものの、これは平日の販売応援に対してのみ支払われるものであり、ライブが行われる土日祝日に販売応援を行ったとしても支払われることはなかった。本件グループのメンバーは、アイドル活動をすることを目的に本件グループに所属していたものであり、その本来の目的であるライブができたときには販売応援をしても上記のような報酬が支払われることはなかったことに照らすと、上記報酬は、メンバーの多くが参加したがるライブに出演できなかったにもかかわらず、アイドル活動としての性格が相対的に弱い販売応援にのみ従事したメンバーに対し、公平の見地から支払われていたものと見るのが相当であり、このような上記報酬の性質に鑑みると、販売応援という労務に対する対価としての性質は小さかったというべきである。
 以上によると、Zに被告におけるタレント活動に関して報酬が支払われていたことを考慮しても、Zを労働基準法上の労働者と認めることはできないというべきである。