全 情 報

ID番号 09447
事件名 時間外手当等請求事件
いわゆる事件名 エム・テックス事件
争点 メールの送受信時間と労働時間
事案概要 (1)被告(エム・テックス株式会社)においては、平成29年12月18日頃、被告の人事部長に背任行為が発覚したために、同部長を懲戒解雇し、被告の従業員である原告が同部長を特に尊敬していた様子がうかがわれたことから、被告は、事実確認が必要であると判断し、同日、原告に自宅待機を命じ(本件命令)、同月19日以後、退職に至るまで自宅待機をさせていた。原告は、自宅待機期間中も自宅で業務上のメールを送受信するなどしていた。本件は、このような事実関係において原告が、被告に対し、雇用契約に基づき、平成28年11月1日から退職日である平成30年1月31日までの所定労働時間外の就労に係る割増賃金等合計169万0894円等の支払(請求1)、労働基準法114条に基づき、付加金等の支払(請求2)を求める事案である。
(2)判決は、自宅待機期間以外の期間についての割増賃金等4万2935円及び付加金3万0963円等の支払いを命じ、自宅待機期間中の割増賃金の請求については同期間中に労働時間はないとして認めなかった。
参照法条 労働基準法32条
体系項目 労働時間(民事)
裁判年月日 令和3年9月10日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ワ)12357号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間(民事)〕
≪自宅待機期間以外の期間について≫
(1)原告は、原告が送受信した各メールの送受信時刻やパソコン上で作成したファイルの作成時刻等を根拠として、原告の始業時刻及び終業時刻は別紙2(略)の「出社」欄及び「退社」欄各記載の時刻であると主張する。
しかし、各メールの送受信等は各日における一時点で原告が業務に関する行為をしていたことを示すものにすぎず、そのことからその前後に継続的に業務に従事していたことまで認められるものではない。
同送受信等は被告の指揮命令が及ばない自宅や通勤途中でも行われたものであるところ、これらが被告の業務上の指示に基づき行われていたと認めるべき的確な証拠はなく、また、これらが原告の私生活上の行為と峻別して行われていたと認めるべき証拠もないことも併せ考えると、同各メールの送受信等をもって原告がその送受信等の時点で被告の指揮命令下にあったとまでいうことはできない。
(2)始業時刻又は終業時刻に争いがある日のうち、次の各日については、被告が導入していたグループウェアに原告が所定労働時間外の具体的な予定を記録した日があることから、これらの日について、原告の労働時間と認められる時間がないか検討する。
 以上からすれば、上記の平成29年8月1日の終業時刻、同年9月21日の始業時刻及び終業時刻、同年10月10日及び同月12日の各終業時刻、同年12月18日の終業時刻については上記のとおりと認められ、これらの日を除けば、被告が本件出退勤記録を基に認める始業時刻及び終業時刻とするのが相当である(ただし、原告がこれより遅い始業時刻又は早い終業時刻を主張する日についてはその時刻とし、本件出退勤記録が存在しない平成29年7月21日から同年8月20日までの間は所定の始業時刻及び終業時刻のとおりとする。)。
≪自宅待機期間中について≫
(3)原告は、平成29年12月18日に被告から本件命令を受け同月19日以後、退職に至るまで自宅待機をしていたが、自宅待機期間中も自宅で業務上のメールを送受信するなどしていたところ、上記(1)で述べたのと同様に、自宅待機期間中にそのような業務を行っていたとしても、それが被告の指揮命令下で行われていたものとはいえないから、自宅待機期間中については、原告が主張するような労働時間があったとはいえない。