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ID番号 09448
事件名 遺族補償年金等不支給処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 国・豊田労基署長(トヨタ自動車)事件
争点 パワハラと労災認定
事案概要 (1)本件は、トヨタ自動車株式会社(本件会社)に勤務していたH(本件労働者)の妻である控訴人が、本件労働者が平成22年1月21日頃に自殺したのは(本件自殺)、本件会社における過密・過重な業務、上司からの継続的なパワーハラスメント(パワハラ)によって本件労働者がうつ病を発病した結果であり業務に起因すると主張して、豊田労働基準監督署長(処分行政庁)に対して労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ、処分行政庁から、平成24年10月30日付けで、本件自殺は業務に起因するものとは認められないとして、遺族補償給付及び葬祭料をいずれも支給しない旨の処分(本件各処分)を受けたため、被控訴人に対し、本件各処分の取消しを求めた事案である。原審は、控訴人の請求をいずれも棄却し、これを不服とする控訴人が本件控訴を提起した。
(2)判決は、原判決を取り消し、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の各処分をいずれも取り消した。
参照法条 労働者災害補償保険法7条
体系項目 労災補償・労災保険/業務上・外認定/ (12) 自殺
裁判年月日 令和3年9月16日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 令和2年(行コ)37号
裁判結果 原判決取消
出典 裁判所ウェブサイト掲載判例
D1-Law.com判例体系
審級関係 確定
評釈論文 梅村浩司・季刊労働者の権利345号66~73頁2022年4月
判決理由 〔労災補償・労災保険/業務上・外認定/ (12) 自殺〕
(1)本件労働者については、①新型プリウス関連業務により「達成は容易でないものの、客観的にみて努力すれば達成も可能であるノルマが課され、この達成に向けた業務を行った」と評価することができる心理的負荷の程度としては「中」相当の出来事、②2020年ビジョン関連業務により「軽微な新規事業等の担当になった」あるいは「仕事内容の変化が容易に対応できるものであり、変化後の業務の負荷が大きくなかった」というものの部長提唱による特命業務であったこと、他の業務と並行して上記業務を進行させる責任を負っていたという点において相応の心理的負荷があった出来事、③本件労働者は、海外業務が初めてであり、かつ、重要で困難な問題を抱えていたTFAP関連業務を担当することになったところ、これは「仕事内容の大きな変化を生じさせる出来事があった」に該当する精神的負荷がある心理的負荷としては「中」相当の出来事があった。そして、この間、長期間にわたり反復継続して、上司から「必要以上に厳しい叱責で他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」といった心理的負荷を受けていたところ、上記TFAP関連業務はそれ自体も相当に困難な業務であり、上司の対応にも変化がなかったことから、同業務の担当となったことを契機として本件発病に至ったものと認めるのが相当である。上記各出来事の数及び各出来事の内容等を総合的に考慮すると、平均的労働者を基準として、社会通念上客観的にみて、精神障害を発病させる程度に強度のある精神的負荷を受けたと認められ、本件労働者の業務と本件発病(本件自殺)との間に相当因果関係があると認めるのが相当である。