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ID番号 09450
事件名 地位確認請求控訴事件
いわゆる事件名 日本貨物検数協会(日興サービス)事件
争点 違法派遣の労働契約申込みなし
事案概要 (1) 本件は、日興サービス株式会社(以下「日興サービス」という。)の従業員である控訴人(一審原告)らが、被控訴人(一般社団法人日本貨物検数協会:一審被告)は、労働者派遣法及びこれが準用する労働基準法等の適用を免れる目的(以下「適用潜脱目的」ともいう。)で、かねてより日興サービスとの間で業務委託(船積貨物の積込又は揚陸を行うに際してするその貨物の箇数の計算又は受渡の証明を行う「検数」事業の委託)の名目で契約を締結し(いわゆる偽装請負)、労働者派遣契約を締結せずに控訴人らによる労働者派遣の役務の提供を受けていたから、労働者派遣法四〇条の六第一項五号に基づき、同条施行の平成二七年一〇月一日以降、控訴人らに対して労働契約の申込みをしたものとみなされ、控訴人らも被控訴人に対してこれを承諾する意思表示をしたと主張して、被控訴人に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認をそれぞれ求めた事案である。
(2) 原審は、被控訴人が労働者派遣法四〇条の六第一項五号に該当する行為を平成二八年三月三一日まで行っていたことを認めた上で、控訴人らに係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みの効力は、労働者派遣法四〇条の六第二項に基づきそれから一年を経過する日である平成二九年三月三一日まで存続していたが、控訴人らの上記みなし申込みに対する承諾の意思表示は、その効力が存続する期間終了後の平成二九年一〇月三一日に行われたと判断し、申込みなし制度による労働契約の成立を否定し、控訴人の請求を棄却した。これを不服として控訴人が控訴した。
(3)判決は、原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないとして、これらを棄却した。
参照法条 労働者派遣法40条の6第1項、2項
体系項目 労基法の基本原則 (民事)/使用者/ (5) 派遣先会社
裁判年月日 令和3年10月12日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 令和2年(ネ)551号
裁判結果 控訴棄却
出典 労働判例1228号33頁
労働法律旬報1970号64頁
審級関係 上告、上告受理申立て
評釈論文 増田尚・民主法律時報579号3~4頁2021年11月
判決理由 〔労基法の基本原則 (民事)/使用者/ (5) 派遣先会社〕
(1)善意無過失による適用免除は、労働者派遣法40条の6同条1項各号に掲げる違反行為の全て(1~5号)を対象としているのに対し、適用潜脱目的という主観的意図は、5号の違反行為(いわゆる偽装請負)のみの要件とされている。これは、平成24年改正の際の議論をも踏まえると、1~4号の違反行為は労働者派遣が許されない場面であり、1~4号に該当する行為を行ったことという客観的事実の認識(悪意)又は認識可能性(過失)があれば、当該労働者派遣の役務の提供を受けた者に民事的な制裁としての申込みみなし制度の適用を認めてよいと考えられるのに対し、5号の違反行為(偽装請負)は労働者派遣が許されない場面ではなく違法状態にあるにとどまる上、その態様や違法状態の程度にも種々のものがあり(例えば、労働者派遣における指揮命令と請負における注文者の指図との区別が微妙な場合等があり得る。)、5号に該当する行為を行ったことという客観的事実の認識(悪意)又は認識可能性(過失)があっても、それだけでは民事的な制裁としての申込みみなし制度の適用を直ちに認めることが適当でない場合もあり得ることから、そのような場合を同制度の適用対象から除外するために加重された要件と解される。
 そうすると、5号の適用潜脱目的は、5号に該当する行為を行ったこと(労働者派遣以外の名目で契約を締結していること及び当該契約に基づき労働者派遣の役務の提供を受けていること)という客観的事実の認識(悪意)から直ちにその存在が推認されるものではないが、他方で、その存在を直接的に示す証拠(行為主体の指示や発言)がなければ認められないものでもなく、その存在を推認させる事情が存在する場合はもとより、上記客観的事実の認識があり、かつ、それにもかかわらず適用潜脱目的ではないことをうかがわせる事情が一切存在しないような場合にも、その存在を推認することができるというべきである。
(2)派遣労働者がみなし申込みを承諾することによって成立する派遣先との間の労働契約は、派遣先が当該みなし申込みに係る行為を行った「その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件」(派遣元における労働条件と同一の労働条件)を内容とする労働契約であり、指揮命令関係の実態も変わらないとはいっても、別の使用者(派遣先)との間で新たに成立する労働契約であるから、有給休暇の日数や退職金算定の基礎となる勤続年数等は承継されないと解されるほか、使用者が変わることに伴って承継されないこととなり、あるいは派遣先の就業規則等との関係から新たに加わることとなる労働条件も必然的に生じ得ると解され、その中には、派遣労働者にとって有利なものだけでなく不利なものがある可能性も否定できない(控訴人らが言及する労働契約法19条における労働者の「申込み」は、同一の使用者との間の同一の労働条件による有期労働契約の更新等を規律するものであるから、場面を異にするものである)。そうすると、みなし申込みに対する承諾の意思表示といい得るためには、少なくとも、使用者が変わることに伴って必然的に変更となる労働条件等があったとしてもなお派遣元との従前の労働契約の維持ではなく派遣先との新たな労働契約の成立を希望する(選択する)意思を派遣労働者が表示したと評価し得るものでなければならず、そうでなければ派遣労働者の希望を的確に反映することにはならないということができる。したがって、派遣先に対する労働契約の締結を求める何らかの意思表示をもって、上記のような変更があったとしてもこれを容認しているとしてみなし申込みに対する承諾の意思表示と実質的に評価し得ることもあろうが、そのような評価を抜きに、直ちにみなし申込みに対する承諾の意思表示があったと判断することはできないというべきである。
 本件各要求等の経緯や内容に照らすと、本件各要求等はあくまで団体交渉の申入れをしたものにとどまり、これをもって控訴人ら(を代理したとする全港湾)の被控訴人に対する何らかの意思表示とみることは困難である。
(3)被控訴人が平成28年4月1日には日興サービスとの間で労働者派遣契約を発効させて従前の業務委託契約を終了させ、いわゆる偽装請負の状態を解消した以上、その後にみなし申込みは発生しておらず、被控訴人による最後のみなし申込みは平成28年3月31日にされたことになり、その効力は同日から1年を経過した平成29年4月1日の到来をもって消滅したことになる。
(4)現行の申込みみなし制度においては、派遣労働者がみなし申込みの発生又は承諾期間の進行開始を認識し得る措置は何ら講じられておらず、労働者派遣法40条の6第2項は、承諾期間について、派遣労働者が「○○を知った時」から進行するものとはせず、派遣労働者の認識の有無にかかわらず「同項に規定する行為が終了した日」から進行するものとしている(申込みみなし制度に内在する上記のような実効性の問題は容易に予想され、かつ、その施行前に実際に指摘もされていることからすると、あえて実効性を担保する措置までは講じなかったとも考えられる)から、このような現行法の解釈としては、申込みみなし制度に上記のような実効性の問題が内在していることを踏まえても、承諾期間は派遣労働者の認識とは無関係に進行するものと解さざるを得ない(これと異なる解釈をすることは、関係者の予見可能性を著しく害することになり、解釈の範囲を超える)。