ID番号 | : | 09451 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | グローバルマーケティングほか事件 |
争点 | : | 一方的な賃金減額の有効性、合意退職の有効性 |
事案概要 | : | (1)本件は、美容院、理容院の経営等を業とする合同会社である被告グローバル社及び被告グラン社(以下、被告グローバル社と被告グラン社を併せて「被告会社ら」ということがある。)の両者と締結していた労働契約に基づき、美容師として勤務していた原告が、〈1〉被告会社らとの間で令和元年5月30日にされた退職合意(以下「本件退職合意」という。)は不成立又は無効であるとして、被告会社らに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、〈2〉平成30年10月に被告会社らによりされた賃金の減額を伴う給与体系の変更は無効であり、在職中の未払賃金が存在するとして、被告会社ら及び同社らの代表社員である被告Y(以下、三者を併せて「被告ら」ということがある。)に対し(被告Yについては会社法597条に基づく)、令和元年7月分までの基本給、歩合給及び残業代の未払賃金合計123万8193円等を求めるとともに、〈3〉令和元年9月から本判決確定まで毎月10日限り未払賃金(基本給)30万円等の連帯支払、〈4〉被告Yらによる退職強要が違法であるとして、被告らに対し、被告Yについては民法709条、被告会社らについては会社法600条による損害賠償請求権に基づき、慰謝料100万円と弁護士費用10万円の合計110万円等の連帯支払を求め、〈5〉さらに、被告会社らに対し、労働基準法(以下「労基法」という。)114条に基づき、未払割増賃金に対する付加金等の支払いをを求める事案である。 (2)判決は、本件賃金変更及び本件退職合意はいずれも無効ないし不成立であるとし、〈1〉の原告の請求を認容し、〈2〉〈3〉については、平成30年10月以降、基本給月額30万円、アポイント・インセンティブ等の賃金請求権(原告が不動産会社に再就職した令和元年7月1日以降は、同社における収入を賃金請求権の4割の限度で控除すべきであるから、上記基本給の6割である月額18万円の限度で賃金請求権)を認容し、〈4〉〈5〉の原告の請求は棄却した。 |
参照法条 | : | 労働契約法8条 労働契約法16条 |
体系項目 | : | 賃金 (民事) /3 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額 15 退職/2 合意解約 |
裁判年月日 | : | 令和3年10月14日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和1年(ワ)23928号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1264号42頁 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金 (民事) /3 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕 (1)被告Yは、平成30年9月18日、原告を含む全従業員とのミーティングの際に、自ら作成したメモに基づき、本件店舗の業績が不振であることから、翌月から基本給を一律5万円減額すること、アポイント・インセンティブを廃止すること、給料分の売上げを上げた人は3万円を増額、上げなかった人は3万円を減額すること、今後のインセンティブ報酬については、被告Yが紹介した顧客についても対象に含めることを口頭で説明したにとどまる。 ※本件賃金変更前後の原告の実際の給与支給額は、本件賃金変更前は月額30万円以上であったものが、本件賃金変更後は平均すると月額26万円程度に減少 (2)本件賃金変更の不利益の程度及び被告らによる説明状況に加え、原告が事後に売上未達成の場合の減額について異議を述べていることに鑑みれば、前記ミーティングの場において原告を含む全従業員が本件賃金変更に異議を述べず、その後も上記を除き異議を述べていないことを考慮しても、本件賃金変更を受け入れる旨の労働者の意思表示が自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在したものと認めることはできない。 以上によれば、本件賃金変更は、原告ら従業員が自由な意思に基づき同意したものとは認められず、無効である。 〔15 退職/2 合意解約〕 (3)労働者が使用者の退職勧奨に応じて退職の意向を示した場合、使用者と労働者との間の交渉力に差異がある一方で、退職が労働者にとって生活の糧を喪失するなどの大きな不利益を生じさせ得ることに照らせば、労働者による退職の意思表示というためには、当該退職の意向が示されるに至った経緯等を踏まえ、労働者の自由な意思に基づいて退職の意思が表示される必要があり、自由な意思に基づくといえるか否かは、当該意思表示をした動機、具体的言動等を総合的に考慮して判断するのが相当である。 原告は、被告Y及びB弁護士から、実際には記録されていなかった防犯カメラの映像に本件暴行の場面が記録されており、これを前提として懲戒解雇や損害賠償請求が認められると言われ、在職を希望する言動から退職を前提とした退職条件の交渉に移行して退職合意書等に署名したものであるから、その自由な意思に基づいて退職の意思表示をしたものとは認められず、本件退職合意の成立は認められないというべきである。 |