全 情 報

ID番号 09452
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日本コーキ事件
争点 能力不足を理由とする試用期間中の解雇
事案概要 (1)本件は、食用油濾過機の製造等を業とする被告との間で労働契約を締結し、試用期間中に解雇された原告が、解雇が無効であると主張して、被告に対し、〈1〉労働契約上の地位を有することの確認を求め(請求1項)、〈2〉未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払(請求2~4項)を求めるとともに、〈3〉解雇が違法であるとして、不法行為に基づき、損害賠償等の支払(請求5項)を求める事案である。
(2)判決は、本件解雇は、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるとして、原告の請求を棄却した。
参照法条 労働契約法16条
体系項目 労働契約 (民事)/ 試用期間/ (2) 本採用拒否・解雇
裁判年月日 令和3年10月20日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ワ)11952号
裁判結果 棄却
出典 D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約 (民事)/ 試用期間/ (2) 本採用拒否・解雇〕
(1)本件労働契約には、被告において、原告が3か月の試用期間中に技能、勤務態度、人物及び健康状態に関して、社員として不適当と認めたときは解約することができる旨の解約権が留保されている。
(2)被告においては、9月頃、溶接グループが繁忙となったことから、即戦力となる溶接の経験者を雇い入れることとしたものであり、そのため、本件求人票にも、溶接その他板金加工の経験者を求める旨が明記されている。食用油濾過機の溶接割れや油漏れは大事故を引き起こしかねないことから、その部品の溶接に当たっては慎重さが求められるところ、被告は大規模な会社であるとはいえず、原告が配属された溶接1係の人員も5名と小規模であって、即戦力となる溶接の経験者を雇い入れる必要性は高かったものと認められる。
(3)原告は、濾過機を構成する部品のうち、専門学校等を卒業したばかりの者が製作目標とするような、上蓋ストッパーや圧力スイッチカバーを満足に製作することができず、複数の母材を溶接することさえ要しない引っ掛けドライバーについても曲げる部分の位置や角度を統一することができず、原告が製作した製品のほとんど全てが商品にならないものであったから、原告の実際の技術水準と、履歴書等の各書類や作業テスト時における原告の言動から期待される水準との間には、相当程度の乖離があったと認められる。
 さらに、原告は、B課長から溶接不良の箇所をマーカーで示しながら、溶接が過剰な部分があり、ムラが生じていることや、溶接すべき部分がずれていることなど、溶接不良の原因について具体的な指摘を受けていたにもかかわらず、被告代表者との面談において、溶接のポイントがずれているという指摘がいかなる趣旨であるか理解できないなどと述べ、その後も溶接不良が改善されなかった。
 そして、原告が本件解雇までに製作した製品の数は合計で数百点に及び、原告の技術水準を判断するには十分であったと認められるから、被告において、試用期間の満了を待たずに、原告が期待された技術水準に達する見込みがないと判断したことにも合理的な理由があるというべきである。
 以上の諸事情に照らせば、本件解雇は、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる。