ID番号 | : | 09454 |
事件名 | : | 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 国・中央労働基準監督署長(クラレ)事件 |
争点 | : | 海外勤務者の労災認定 |
事案概要 | : | (1) 原告の夫であったD(以下「亡D」という。)は、株式会社クラレ(以下「補助参加人」という。)に雇用され、平成28年8月16日付けで、EE社(ベルギー王国に本社がある法人であり、補助参加人の子会社)へ「ローテーション」との理由で補助参加人の就業規則4条1項(会社は、業務の都合で転勤・出向・応援出張を命じ、または職場もしくは職種の変更を命ずることがある。)に基づき出向の辞令を受け、同日から、EE社において、補助参加人が独自に開発したエンジニアリング・プラスチックである耐熱性ポリアミド樹脂である「ジェネスタ」部門のマーケティングデベロップマネジメントマネージャーという肩書でジェネスタのヨーロッパにおける市場開発業務等に従事していたが、平成29年2月23日、ドイツ連邦共和国において自殺した。原告は、中央労働基準監督署長(以下「監督署長」という。)に対し、亡Dの死亡は業務上の死亡に当たるとして、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したが、監督署長は、亡Dが労災保険法33条7号にいういわゆる「海外派遣者」に当たるとした上で、労災保険法36条の定める特別加入の申請がなく、亡Dの死亡の原因と主張される精神疾患の発症に関わる業務上の出来事は亡Dが国外にあって労災保険適用外の期間に発生したものであるから、労災保険法上の保険給付の対象にならないとして、これらを支給しないとの各処分(以下「本件各処分」という。)をした。 本件は、原告が、亡Dは海外派遣者には当たらず、特別加入の申請を要しないいわゆる「海外出張者」に当たると主張して、本件各処分の取消しを求める事案である。 (2)判決は、亡Dは、海外派遣者に当たるといえ、亡Dは特別加入の承認を得ていないことから亡Dについて保険関係の成立は認められず、本件各処分に違法があるとはいえないとした。 |
参照法条 | : | 労災保険法33条7号 労災保険法36条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険/業務上・外認定/ (5) 出張中 |
裁判年月日 | : | 令和3年4月13日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成30年(行ウ)451号 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例1272号43頁 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険/業務上・外認定/ (5) 出張中〕 (1)EE社のジェネスタ部門と他の部門との場所的独立性、EE社のジェネスタ部門の所属人数、所属人員の兼務の状況に鑑みれば、EE社のジェネスタ部門は同一の場所にある他のEE社の部門と分割した上で独立した「事業」に当たると認めることはできない。 他方、EE社のジェネスタ部門は、ベルギーに本社がある法人であり、日本にある補助参加人のジェネスタ事業部と場所的独立性があることは明らかである。 EE社の事業は、EE社は補助参加人の実質的な100%子会社であることを考慮しても、独立した「事業」に当たるといえる。 (2)亡DはEE社における市場開発業務の遂行に当たって補助参加人のジェネスタ事業部と密に連絡を取り合っていたといえる。 しかし、このように密な連携をしていたことは、亡Dが担当していた市場開発の業務からすれば当然に必要となるにすぎず、これをもって直ちに亡Dが補助参加人のジェネスタ事業部から指揮命令を受けていたことにはならない。そして、何よりもまず、亡Dが、日常的な業務遂行について、補助参加人のジェネスタ事業部から指揮命令を受けていたことを認めるに足りる証拠はない。 (3)以上の事情を総合的に勘案すると、亡Dが、単に労働の提供の場が海外にあるだけで国内の事業場である補助参加人のジェネスタ事業部に所属して当該事業場の使用者の指揮に従って勤務している海外出張者に当たるとはいえない。 |