全 情 報

ID番号 09455
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 アジアスター事件
争点 有期雇用労働者の期間中の解雇
事案概要 (1)本件は、グラフィック関連事業等を目的とする被告(株式会社アジアスター)と有期雇用契約(雇用期間は令和2年5月20日~令和3年5月19日:試用期間は2か月)を締結していた原告が、期間途中の令和2年6月11日と同月19日、二度にわたり不当解雇されたと主張して、〈1〉雇用契約上の地位確認、〈2〉解雇された後の未払賃金700万円の支払い、〈3〉入社前に行った業務に関する未払賃金の支払を求める事案である。
(2)判決は、原告の〈2〉の請求を認容し、その余の請求は棄却した。
参照法条 労働契約法16条
労働契約法17条1項
体系項目 解雇 (民事) /解雇予告/ (1) 解雇予告の方法〕〔解雇 (民事)/ 3 解雇権の濫用
裁判年月日 令和3年10月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 令和2年(ワ)第26093号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇 (民事) /解雇予告/ (1) 解雇予告の方法〕
(1)被告代表者は、令和2年6月11日、原告に対し、「Xさんの仕事をここまでにしたいです。」と言ったことが認められ、これは解雇に当たるものといえる。
 しかし、被告代表者が、原告に対し、令和2年6月17日付けで、改善指導書(以下「本件改善指導書」という。)を郵送しているところ、本件改善指導書には「なお、在宅ワークは許可しませんので、通常通り出社してください。」という記載があること、原告はこれを受けて同月18日被告に出社したことが認められることからすれば、被告が同月11日にした解雇は撤回されたものと認められる。
(2)被告が原告に令和2年6月19日に交付した試用期間満了の通知には、試用期間満了日として令和2年6月19日という記載はあるものの、「本通知は労働基準法第20条に基づく解雇予告通知であることをご承知おきください。」という記載もあることが認められる。これによれば、被告がした解雇の効力は令和2年7月19日に発生したものと解されるから、即日解雇したという原告の主張は採用できない。
〔解雇 (民事)/ 3 解雇権の濫用〕
(3)原告と被告は2か月の試用期間についても合意していること、被告が令和2年6月19日にした解雇は、その試用期間内にされていることが認められ、これらによれば、被告が同日にした解雇は解約留保権の行使であると認められる。労働契約自体が有期雇用であって、その期間の中においては無期雇用よりも雇用保障がされていること(労働契約法16条、17条1項)に照らせば、有期雇用契約における解約留保権の行使は、無期雇用契約におけるものよりはより厳格に認められるべきである。
 被告が主張する解雇事由を認めることができず、被告が令和2年6月19日にした解約留保権の行使は、理由がない。したがって、原告は、被告に対し、有期雇用契約の残りの期間に相当する令和2年7月20日から令和3年5月19日までの10か月分の月額給与700万円の支払を求めることができる。
(4)原告は、被告に対し、雇用契約上の地位確認請求を求めている。しかし、原告と被告との雇用契約は、令和2年5月20日から令和3年5月19日までの有期雇用契約であり、同日の経過により原告と被告との雇用契約は終了している。そして、被告は、雇用してから1か月経過した令和2年6月19日に原告を解雇し、その後も一貫して原告との雇用契約を否認し続けており、原告との雇用期間が満了した令和3年5月19日の時点で黙示に契約更新を拒絶したものと認められる。
 したがって、原告の雇用契約上の地位確認請求は理由がない。
(5)原告は、令和2年5月7日から同月19日まで採用活動を行ったことについて、被告が、原告に対し、同月7日から同月19日までの日割賃金42万7777円の支払義務を負う旨主張する。
 しかし、原告と被告代表者は、上記採用業務の対価について一切合意していないことが認められる。原告の上記主張を採用することはできない。