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ID番号 09456
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 大器キャリアキャスティングほか1社事件
争点 兼業等による長時間労働の安全配慮義務
事案概要 (1)原告は、セルフ方式による24時間営業の給油所において、主に深夜早朝時間帯での就労をしていた者である。給油所を運営するA株式会社(以下「A社」という。)は、深夜早朝時間帯における給油所の運営業務を大器株式会社に委託していたところ、同社は、その業務を被告大器キャリアキャスティング株式会社(以下「大器CC」という。)に再委託した。原告は、同給油所において、被告大器CCとの労働契約に基づき、深夜早朝時間帯での就労をしていたが、その後、A社とも労働契約を締結し、被告大器CCでの就労に加えて、A社との労働契約に基づき、週一、二日、深夜早朝以外の時間帯にも就労するようになった。原告は、被告大器CC及びA社を吸収合併した被告株式会社ENEOSジェネレーションズ(以下「ENEOS」という。)に対し、
主位的請求として、①被告大器CCとの労働契約の期間満了による雇止めが無効であると主張して、被告大器CCに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求をするとともに、②原告の長時間の労働時間の軽減等をすべき注意義務があったのにこれを怠ったこと、被告大器CCの従業員が原告にしたパワーハラスメントに適切に対処すべき義務があるのにこれを放置したことのいずれもが不法行為であり、被告大器CCと被告ENEOSは共同不法行為による損害賠償、③被告大器CCが原告との労働契約について、契約期間満了による雇止めをしたことは違法であり、これにより原告が精神的苦痛を被ったと主張して、被告大器CCに対し、不法行為に基づく損害賠償など
予備的請求として、①被告大器CCに対し、不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償、②被告ENEOSは原告の連続かつ長時間労働を把握し又は把握し得たのであるから原告の労働時間の軽減等をすべき労働契約上の安全配慮義務があったところ、これを怠ったと主張して、被告ENEOSに対し、債務不履行に基づく(不法行為に基づく請求はしない。)損害賠償などを請求した。
(2)判決は、原告のいずれの請求も棄却した。
参照法条 民法415条
民法709条
民法719条
労働基準法38条
労働契約法19条
体系項目 労働時間 (民事)/ 4 労働時間の通算
解雇 (民事)/ 14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)
裁判年月日 令和3年10月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ワ)第5676号
裁判結果 棄却
出典 労働判例1257号17頁
労働経済判例速報2471号3頁
審級関係 控訴
評釈論文 飛田秀成・労働経済判例速報2471号2頁2022年3月10日
判決理由 〔労働時間 (民事)/ 4 労働時間の通算〕
(1)被告大器CC及びA社との労働契約に基づく原告の連続かつ長時間労働の発生は、原告の積極的な選択の結果生じたものであるというべきであり、原告は、連続かつ長時間労働の発生という労働基準法32条及び35条の趣旨を自ら積極的に損なう行動を取っていたものといえる。すなわち、原告は、被告大器CCと労働契約を締結していたにもかかわらず、A社とも労働契約を締結し、被告大器CCとの労働契約上の休日(日曜日)にA社での勤務日を設定して連続勤務状態を生じさせ、現場責任者Bから勤務の多さについて労働基準法に抵触するほか、自身の体調を考慮して休んでほしい旨注意され、5月中旬までにはA社の下での就労を確実に辞める旨約束した後も、別途金曜日にA社との労働契約に基づく勤務を入れたり、平成26年4月28日にF店における就労について話し合った際も同僚Kの意向に反して自ら就労する意向を通していたのである(かかる原告の行動・態度に照らせば、たとえ被告大器CCが更に別の曜日を休日にするなどの勤務シフトを確定させたとしても、原告が独自に交渉するなどして、その休日にA社の下で就労し、あるいは、更に異なる事業所で勤務しようした蓋然性が高いと認められる。)。
 他方、被告大器CCとしては、いかに契約関係に基づいて24時間営業体制が構築されているとはいえ、原告とA社の労働契約関係に直接介入してその労働日数を減少させることができる地位にあるものでもない(それゆえに、Bは、原告に注意指導してA社との労働契約を終了するよう約束を取り付けている。)。
 加えて、そもそも原告の担当業務に関する労働密度は相当薄いというべきものであること、被告大器CCは基本的に日曜日を休日として設定していること、Bは原告に対し、労働法上の問題のあることを指摘し、また、原告自身の体調を考慮して休んでほしい旨注意をした上、原告に同年5月中旬までにはA社の下での就労を確実に辞める旨の約束を取り付けていることなど、本件に表れた諸事実を踏まえると、被告大器CCが原告との労働契約上の注意義務ないし安全配慮義務に違反したとまでは認められない。
 以上のとおり、被告大器CCは、原告主張に係る注意義務ないし労働契約上の安全配慮義務違反は認められないから、この点に関する原告の請求は理由がない。
(2)原告は、現場責任者Bがしたとする言動を挙げ、これが違法なパワーハラスメントに該当する旨縷々主張し、これに沿う供述をするが、いずれも客観的な裏付けに乏しく、他方で、そのような言動を否定するBの供述があることに照らせば、原告主張に係るBの言動自体を認めることはできない。以上によれば、被告大器CCの違法なパワーハラスメントに関する原告の主張はいずれも採用できない。
〔解雇 (民事)/ 14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)〕
(3)原告が被告大器CCとの間に期間の定めのある労働契約を締結したのは、平成26年2月1日であり、同労働契約は本件雇止めまでに1回更新されているものの、契約締結から本件雇止めによって契約期間満了となった平成27年3月31日までの通算期間は1年1か月にすぎない。
 また、原告は、他の従業員が勤務を予定していた時間についてまで自己の勤務時間を増やす行動をして、上司を交えた調整をしなければならない状況となり、その場でも自己の意向を通していたこと、原告が就業規則に反して他業者と労働契約を締結し、被告大器CCの担当者から注意され、更には合理性を有すると認められる「業務指示書」への署名押印を求められても従わずに飽くまで拒否するなどしていた状況にあったというのである。
 そうすると、本件労働契約上の更新回数、通算した契約期間、原告の就労状況、業務指導に対する対応状況等を踏まえると、原告指摘に係る更新後の契約期間が当初の2か月間よりも長い1年間となっていること等を考慮しても、原告について契約更新に対する合理的期待があると認めることは困難である。
 仮に、契約更新に対する合理的期待の点を措くとしても、上述した原告の就労状況、業務指導に対する対応状況等を踏まえると、被告大器CCが原告との労働契約について雇止めしたことについて、合理的理由があり、かつ、社会通念上も相当と解される。
 そうすると、本件雇止めが無効であるということはできない。