全 情 報

ID番号 09457
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 龍生自動車事件
争点 コロナウイルス感染症拡大に伴う会社解散による解雇の有効性
事案概要 (1)本件は、一般旅客自動車運送事業等を業とする龍生自動車株式会社(被告)が、近年の売上低下及び新型コロナウイルス感染症拡大に伴う更なる売上の激減により事業の継続が不可能な事態に至ったとして、令和2年4月15日、被告においてタクシー乗務員として勤務していた原告を含む全ての従業員に対し、同年5月20日をもって就業規則27条1項13号に基づき解雇するとの意思表示をした(以下「本件解雇」といい、本件解雇からその効果が発生するまでの期間を「本件解雇予告期間」という。)ため、原告が、被告に対し、〈1〉当該解雇が無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに解雇後の賃金月額等の支払を求めるとともに、〈2〉被告による違法な解雇及び本件訴訟における不誠実な態度が不法行為を構成すると主張して、被告に対し、慰謝料100万円の支払を求める事案である。
(2)判決は、本件解雇は被告が解雇権を濫用したものとはいえないから有効であるとして、原告の請求を棄却した。
参照法条 労働契約法16条
体系項目 解雇 (民事)/ 解雇事由/ (32) 企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更
裁判年月日 令和3年10月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 令和2年(ワ)19680号
裁判結果 棄却
出典 労働判例1263号16頁
労働経済判例速報2473号3頁
審級関係 控訴
評釈論文 田中勇気・労働経済判例速報2473号2頁2022年4月10日
本久洋一・労働法律旬報2017号44~45頁2022年10月10日
高仲幸雄・経営法曹214号67~75頁2022年12月
判決理由 〔解雇 (民事)/ 解雇事由/ (32) 企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更〕
(1)被告は、本件解雇に先立ち、本件解雇予告期間中に事業譲渡が実現しない限り、被告の事業を廃止し、事業譲渡の成否を問わず、事業譲渡又は事業廃止の後に解散することを決定していたと推認されるから、本件解雇は解散に伴うものと認められる。そして、会社の解散は、会社が自由に決定すべき事柄であり、会社が解散されれば、労働者の雇用を継続する基盤が存在しないことになるから、解散に伴って解雇がされた場合に、当該解雇が解雇権の濫用に当たるか否かを判断する際には、いわゆる整理解雇法理により判断するのは相当でない。もっとも、〈1〉手続的配慮を著しく欠いたまま解雇が行われたものと評価される場合や、〈2〉解雇の原因となった解散が仮装されたもの、又は既存の従業員を排除するなど不当な目的でなされたものと評価される場合は、当該解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるとは認められず、解雇権を濫用したものとして無効になるというべきである
(2)本件解雇の原因である被告の解散は、新型コロナウイルス感染症の感染の拡大、取り分け、令和2年4月7日の緊急事態宣言発出に伴う営業収入の急激な減少を契機としてなされたものであり、かかる事態の発生を被告において事前に予見することは困難であった。そして、被告において、緊急事態宣言発出後間もない時期に、事業継続が不可能であると判断するに至っていることからすれば、本件解雇に先立って、被告から原告に対し、上記のような急激な経営状況の悪化について情報提供をすることはそもそも困難であったということができる。他方、上記のような急激な経営状況の悪化が起こる前に、被告の経営状況が厳しい旨の情報提供がなされていたとしても、原告において、早期に転職先を探すなどの行動をとっていた可能性が高かったとまでは認められず、かかる情報提供がされていなかったことをもって本件解雇が手続的配慮を著しく欠いたまま行われたということはできない。
(3)被告は、解雇予告後ではあるものの、団体交渉を行って具体的な情報を提供するとともに、低額ではあるものの金銭的な給付をし又は給付を申し出ているなど、急激に経営状況が悪化する中において可能な範囲で手続的な配慮をしたということができる。
(4)本件解雇は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大や緊急事態宣言発出に伴う営業収入の急激な減少という予見困難な事態を契機としてなされたものであって、被告が原告に対し事前に有意な情報提供をすることは困難であった上、解雇後には一応の手続的配慮がされていたことからすれば、本件解雇が著しく手続的配慮を欠いたまま行われたということはできない。
 また、本件解雇は、事業譲渡に当たり従業員や労働組合を排除するといった不当な目的をもってなされたものとは認められない。
 以上によれば、本件解雇は被告が解雇権を濫用したものとはいえないから有効であり、その余の点について判断するまでもなく、原告の地位確認請求及び賃金請求はいずれも理由がない。