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ID番号 09458
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 ライフ・イズ・アート事件/東リ事件
争点 偽装請負による労働契約申込みなし
事案概要 (1) 被控訴人(東リ株式会社:一審被告)は有限会社ライフ・イズ・アート(以下「ライフ社」という。)との間で業務請負契約1(巾木工程)及び業務請負契約(化成品工程)を締結して、ライフ社の労働者である控訴人(一審原告)ら5人は、被控訴人の工場で製品の製造業務に従事していた。
 ライフ社は、被控訴人との業務請負契約1(巾木工程)について平成29年2月28日をもって終了させることとし、同年3月1日、被控訴人との間で、派遣期間を同日から同月30日までとする労働者派遣個別契約を締結し、控訴人らを含む12名を巾木工程に派遣した。
 一方、被控訴人との業務請負契約2(化成品工程)は、平成29年3月31日まで継続し、同日をもって終了した。これに伴い、控訴人らは、ライフ社から、同月30日限りで他の従業員らとともに整理解雇された。
 このため、控訴人らが、被控訴人に対し、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(ただし、平成24年法律第27号による改正後のもの。以下「労働者派遣法」という。)40条の6第1項5号、同項柱書に基づき、控訴人らと被控訴人との間に労働契約が存在することの確認及び賃金の支払を求める事案である。
(2) 第一審の神戸地裁判決は、偽装請負を認めず、控訴人の請求を棄却したため、これを不服として控訴人らが控訴した。
(3) 控訴審判決は、原判決を取り消し、控訴人らの請求を認容した。
参照法条 労働者派遣法40条の6第1項5号
体系項目 労働契約 (民事)・1 成立
裁判年月日 令和3年11月4日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 令和2年(ネ)973号
裁判結果 原判決取消
出典 労働判例1253号60頁
労働経済判例速報2470号3頁
労働法律旬報2003号59頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係 上告、上告受理申立て(2022年6月7日上告棄却、上告不受理)
評釈論文 竹内(奧野)寿・ジュリスト1566号4~5頁2022年1月
藤田進太郎・労働経済判例速報2470号2頁2022年2月28日
萬井隆令・労働法律旬報2003号13~24頁2022年3月10日
村田浩治・民主法律時報580号1~2頁2021年12月
小宮文人・季刊労働法277号212~213頁2022年6月
小林大祐・労働判例1264号5~19頁2022年7月1日
本庄淳志・法学セミナー67巻9号132~133頁2022年9月
塩見卓也・民商法雑誌158巻3号224~234頁2022年8月
高亮・経営法曹214号145~158頁2022年12月
判決理由 〔労働契約 (民事)・1 成立〕
(1)ライフ社は、巾木工程及び化成品工程において、業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行っていたと認めることはできないから、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(昭和61年労働省告示第37号。平成24年厚生労働省告示第518号による改正後のもの。以下「本件区分基準」という。)2条一イに定める請負の要件は満たされていない。
(2)ライフ社は、単に労働者の労働時間を形式的に把握していたにすぎず、労働時間を管理していたとは認めることはできないから、本件区分基準2条一ロに定める請負の要件も満たされていない。
(3)ライフ社の従業員が事故を惹起した場合には、ライフ社の常勤主任又は主任が被控訴人に対して報告するとともに、当該従業員を指導していたことが認められるが、L社長に伝えられたことや、これに基づき、ライフ社として、従業員の服務規律に関する指示が行われていたことを認めるに足りる証拠はない。また、請負であれば、ライフ社の従業員が有給休暇をとる場合において仕事の完成を確保するための応援者を手配することはライフ社の責任で行うべき事項であると考えられるが、2名しか配属されていない化成品工程において控訴人Eが有給休暇をとる場合の応援者の手配は、被控訴人の従業員であるJ係長に連絡することにより行われており、L社長が関与していた形跡はない。これらの点に照らすと、本件区分基準2条一ハに定める請負の要件も満たされているとはいえない。
(4)本件業務請負契約1・2の請負代金は、巾木工程及び化成品工程ともに定額であり、製品に不具合が生じた場合、ライフ社から被控訴人に対して報告等がされていたが、本件業務請負契約1・2に基づきライフ社が一度でも被控訴人から請負人としての法的責任の履行を求められた形跡はないから、実態として、ライフ社が請負契約に基づく請負人としての法律上の責任を負っていたとは認められない。
 ライフ社が、原材料や製造機械を自己の責任や負担で準備し、調達したと評価することはできない。
控訴人らが巾木工程で稼働するために必要となる知識や技量は、被控訴人の従業員であったSが控訴人らをオンザジョブで指導したことにより得られたものであったことが認められるのであり、ライフ社から教育や研修を受けたことによるものではない。
 これらの事情を考慮すると、ライフ社は、被控訴人から請負契約により請け負った業務を自らの業務として被控訴人から独立して処理していたものということができないから、本件区分基準2条二の請負の要件も満たされていない。
(5)以上によれば、ライフ社が本件業務請負契約1・2に基づいて被控訴人の伊丹工場の巾木工程及び化成品工程で行っていた業務は、本件区分基準にいう請負の要件を満たすものということはできない。
(6)平成22年頃までは、巾木工程では被控訴人の従業員Sがライフ社の従業員と共に稼働していたことが認められ、化成品工程でも被控訴人の従業員とライフ社の従業員が混在していたことが認められる。確かに、平成26年頃、被控訴人は、プリント巾木工程のSが巾木工程のライフ社の従業員を指導したことが請負契約における指揮命令権の観点から問題があると考え、Sをプリント巾木工程から異動させたことが認められるが、このことは、逆にいえば、被控訴人において本件業務請負契約1・2が偽装請負とされる可能性を意識していたことを示すものである。そして、前記検討したところによれば、被控訴人は、従業員の混在がなくなった後も巾木工程及び化成品工程におけるライフ社の従業員に対する業務遂行上の具体的な指示を続けるなど、偽装請負等の状態を解消することなく、日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたのであるから、本件業務請負契約1・2が解消されるまでの間、被控訴人には、偽装請負等の目的があったものと推認することができる。
(7)労働契約の申込みをしたとみなされる場合には、違法行為がされている日ごとに労働契約の申込みをしたとみなされることになる。したがって、被控訴人は、労働者派遣法 40条の6第1項5号に基づき、巾木工程のライフ社の従業員に対しては、本件業務請負契約1が終了した平成29年2月28日まで、化成品工程のライフ社の従業員に対しては、本件業務請負契約2に基づき役務の提供を受けた同年3月30日まで、毎労働日に労働契約の申込みをしたものとみなされるというべきである。
(8)被控訴人は、労働者派遣法40条の6第1項5号に該当する行為を行い、遅くとも平成29年2月28日(控訴人Eについては同年3月30日)に同項柱書本文により労働契約の申込みをしたものとみなされ、これに対して、控訴人Eを除く控訴人らは、同条第2項の期間内である同月17日に承諾する旨の意思表示を発したから、旧民法526条により、同日、控訴人Eを除く控訴人らと被控訴人との間に各労働契約が成立したと認められ、控訴人Eを除く控訴人らには、被控訴人に対し、契約成立後の日である同年4月1日から各労働契約に係る賃金の支払を求める権利が認められる。
 また、控訴人Eも労働者派遣法40条の6第2項の期間内である同年8月25日に承諾する旨の意思表示をしたから、同日、控訴人Eと被控訴人との間に労働契約が成立したと認められ、控訴人Eには、被控訴人に対し、同日から労働契約に係る賃金の支払を求める権利が認められる。