ID番号 | : | 09459 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本オラクル事件 |
争点 | : | 専門技術者の能力不足を理由とする試用期間中の解雇 |
事案概要 | : | (1)本件は、コンピュータ・ソフトウェアの研究、開発等コンピュータ・ソフトウェア関連の事業を幅広く行う株式会社であり、グローバルな企業グループを形成するうちの一社である被告と平成31年2月1日に試用期間3か月として、通信業界の専門家である「テレコム・イノベーション・アドバイザー」(以下「テレコム・イノベーター」という。)として採用された原告が、令和元年6月30日付けで解雇されたため、原告が解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び賃金等の支払を求めた事案である。 (2)判決は、原告の請求をいずれも棄却した。 |
参照法条 | : | 労働契約法6条 労働契約法16条 |
体系項目 | : | 解雇 (民事)/ 解雇事由/ (3) 職務能力・技量 |
裁判年月日 | : | 令和3年11月12日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和1年(ワ)29494号 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働経済判例速報2478号18頁 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇 (民事)/ 解雇事由/ (3) 職務能力・技量〕 (1)被告は、本件解雇をした際に、原告に対する解雇の効力発生日を、試用期間満了後である令和元年5月末日とし、その後、さらに1か月後である同年6月末日に変更したものであるが、留保された解約権を行使する旨の意思表示が、試用期間内に確定的にされた場合には、労働者の地位を不当に不安定にするものでない限り、解雇の効力発生日が試用期間満了日よりも後にされたとしても、なお上記留保された解約権の行使としての解雇と扱われることになるものと解される。 本件において、当初の解雇の効力発生日が同年5月末日とされたのは、上記本件解雇の意思表示の時期を前提に、解雇予告期間(労働基準法20条参照)を踏まえたものであることがうかがわれ、その後、同年6月末日とされたのは、原告に就職活動をする時間的猶予を与えて、円満に事態を収める目的であったことがうかがわれるものであり、いずれの効力発生日も、試用期間満了日から2か月以内であったことをも踏まえれば、原告の地位を不当に不安定にするものではあったとはいえない。したがって、本件解雇は、本件雇用契約により留保された解約権の行使として、その有効性が検討されることとなる。 (2)テレコム・イノベーターの職責は、専門知識に基づき、通信業界の顧客の役員・部長級の社員と、技術革新について議論し、被告が提供するソリューションの営業につなげていくことであり、そのためには、相手の意見・考え方を理解した上で、通信業界における深い知識に基づいて、海外における高度なものであることが推認さる業界の最新動向に関する情報を提供し、議論を進めることが必要であり、そのために必要なコミユニケーション能力は、相当に高度なものであることが推認される。 客観的にその存在が裏付けられている原告のコミュニケーションにおける問題は、原告が、以上のテレコム・イノベーターに必要とされるコミュニケーション能力を有していないことを端的に明らかにするものであるといわざるを得ない。 (3)原告については、その職務経験歴等を生かして、高度な業務の遂行が期待され、かつそれに見合った待遇を受けるという採用の趣旨を前提とすれば、そのコミュニケーション能力が、テレコム・イノベーターに求められる水準に達していないことを、試用期間中の執務状況等についての観察等によって、被告が知悉したということができるから、原告を引き続き雇用しておくことが適当でないという被告の判断は、評価最終決定権の留保の趣旨に照らして客観的に合理的理由を欠くものでなく、社会通念上相当であったと認められる。したがって、本件解雇は、権利の濫用には当たらず、有効なものというべきである。 |