ID番号 | : | 09460 |
事件名 | : | 地位確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本郵便(北海道支社・本訴)事件/日本郵便事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | (1)本件は、被控訴人(原審被告:日本郵便株式会社)と期間の定めのない労働契約を締結して営業インストラクター業務に従事していた控訴人が、故意に虚偽の内容の旅費の請求を行い、被控訴人から、水増しされた旅費(クオカード代を含む。)の支給を受けて、正当な旅費との差額を詐取(利得)したという理由によってなされた平成30年3月22日の懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」という。)は、懲戒事由が認められず、懲戒事由があるとしても客観的合理的理由を欠き、社会通念上の相当性を欠くものであるから無効であるなどと主張して、被控訴人に対し、〈1〉雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、〈2〉解雇期間中の未払いの賃金等の支払を求めた事案である。 原審(札幌地裁)が、本件懲戒解雇は有効であるとして、控訴人の請求を全て棄却したところ、これを不服として控訴人が控訴した。 なお、控訴人は、控訴審において、請求する各期の賞与の額を拡張するとともに、賞与請求の対象を令和2年度の年末手当までに減縮し、〈3〉被控訴人が解雇権を濫用したことによる不法行為に基づく損害賠償金200万円等の請求、〈4〉労働基準法(以下「労基法」という。)26条所定の休業手当金及び同法114条所定の未払休業手当額に相当する付加金等の請求を追加した。 (2)控訴審判決は、原判決を変更し、控訴人が、被控訴人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認し、賃金請求の一部を認容した。 |
参照法条 | : | 労働契約法15条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇/処分の量刑 |
裁判年月日 | : | 令和3年11月17日 |
裁判所名 | : | 札幌高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和2年(ネ)75号 |
裁判結果 | : | 原判決変更、控訴一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1267号74頁 労働経済判例速報2475号3頁 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 上告、上告受理申立て(2022年6月23日:上告棄却、上告不受理) |
評釈論文 | : | 増田陳彦・労働経済判例速報2475号2頁2022年4月30日 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇/処分の量刑〕 (1)被控訴人は、令和元年5月21日から同月27日の間に、旅費の不正受給をした10名の営業インストラクター(以下「本件服務規律違反者ら」という。)に対し、停職や減給の懲戒処分(以下「後行懲戒処分」という。)をした。被控訴人において、懲戒処分の種類は懲戒解雇、諭旨解雇、停職、減給、戒告、訓戒、注意の7種とされる(就業規則82条)ところ、本件服務規律違反者らに対する懲戒処分で最も重いものは停職3か月であった。 控訴人と本件服務規律違反者らのうち最も重い処分である停職3か月を受けた者とを比較すると、不正請求の期間は控訴人が約1年6か月、本件服務規律違反者が約3年6か月、不正請求の回数は控訴人が100回、本件服務規律違反者が247回、非違行為による旅費の額は控訴人が194万9014円、本件服務規律違反者が41万2550円、正当な旅費との差額は控訴人が54万2400円、本件服務規律違反者が27万6820円であり、本件服務規律違反者より担当地域の広い広域インストラクターである控訴人の方が非違行為による旅費の額や正当な旅費との差額は大きいが、不正請求に及んでいた期間や回数はむしろ少ない。 以上のような事情等を総合すれば、本件非違行為の態様等は、本件服務規律違反者らの中で最も重い停職3か月の懲戒処分を受けた者と概ね同程度のものであるといえる。 控訴人の本件非違行為は、本件服務規律違反者らの行為に比して悪質性が顕著であるとか、控訴人がもっぱら自己の利益を図るために非違行為に及んだとまではいえず、控訴人と本件服務規律違反者らとの間で、非違行為の態様等において質的に異なったり大きな差異があったりするものとは認められない。 本件非違行為の態様等は、本件服務規律違反者らの中で最も重い停職3か月の懲戒処分を受けた者と概ね同程度のものであるといえ、本件非違行為に対する懲戒処分として懲戒解雇を選択すれば、本件非違行為に係る諸事情を踏まえても、前記停職3か月の懲戒処分を受けた者との均衡も失するといわざるを得ない。 したがって、本件懲戒解雇は、その余の手続面等について検討するまでもなく、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することができないものであり、懲戒権を濫用するものとして無効と認められる。 (2)本件懲戒解雇は無効であるから、被控訴人は、控訴人に対し、控訴人に対し解雇期間中の賃金を支払うべき義務がある。 (3)懲戒解雇という処分量定が重すぎるとはいえ、その非違の程度は重大であること、本件懲戒解雇に至る被控訴人社内の手続について、杜撰な調査や弁明の不聴取等の問題はみられないことなどからすれば、本件懲戒解雇が不法行為に当たるということはできず、不法行為に基づいて慰謝料の支払を求める控訴人の請求は理由がない。 上記の事情のほか、原審では本件懲戒解雇は有効と判断されていたこと、被控訴人は、別件仮処分決定後、控訴人に対し、毎月20万円の仮払を行っていることを考慮すると、本件において、被控訴人に付加金の支払を命じることは相当ではない。したがって、付加金の支払を求める控訴人の請求は理由がない。 |