全 情 報

ID番号 09463
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 NECソリューションイノベータ事件/NECソリューションイノベータ(配転)事件
争点 経営改善のための事業所閉鎖に伴う配転命令の効力
事案概要 (1)本件は、被告(NECソリューションイノベータ株式会社)の従業員である原告が、NECグループが経営状況の改善の一環として、組織の構造改革や業務の効率化を図る方策の一つとして拠点(事業場)を集約することに伴う配転命令を拒否したことを理由として懲戒解雇されたことにつき、同懲戒解雇が無効であるとして、労働契約上の地位を有することの確認、同懲戒解雇後の賃金及び賞与並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまでの遅延損害金とともに、多数の従業員の面前で懲戒解雇通知書を読み上げられたことが不法行為に当たるとして、民法709条に基づき損害賠償を求める事案である。
(2)判決は、懲戒解雇は有効であるなどとして、原告の請求を棄却した。
参照法条 民法709条
労働契約法3条
労働契約法16条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣/ 3 配転命令権の濫用
裁判年月日 令和3年11月29日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ワ)5743号
裁判結果 棄却
出典 判例時報2533号38頁
労働判例1277号55頁
労働経済判例速報2474号3頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴(後、和解)
評釈論文 西川翔大・民主法律時報580号4頁2021年12月
平越格・労働経済判例速報2474号2頁2022年4月20日
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣/ 3 配転命令権の濫用〕
(1)使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の配転命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該配転命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令がほかの不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該配転命令は権利の濫用になるものではないというべきである。また、業務上の必要性についても、当該配転先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである(最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決・集民148号281頁参照)。
(2)拠点(事業場)を集約して、組織の構造改革や業務の効率化を図ることも経営改善に向けて講じられる方策の一つであるということができる。
 しかるところ、複数の拠点(事業場)が存在する場合に、どの拠点を閉鎖し、どの拠点に集約するのかは、様々な事情を考慮して決定されるものである。本件においては、統合オペレーションサービス事業部について、関西、北海道及び東海の三つの事業場を閉鎖し、東北、北陸、九州、沖縄及び玉川事業場の五つの事業場に集約されることとなったところ、閉鎖する事業場の選定において、不自然・不合理な事情は見受けられない。
(3)閉鎖する事業場である関西・西日本オフィスに勤務していた従業員を、玉川事業場に配転するということは、業務の効率化や、閉鎖される事業場に勤務していた従業員の雇用の維持という観点からみても、合理的な方策であるということができる。
 以上からすると、本件配転命令について、業務上の必要性があったということができる。
(4)本件配転命令には業務上の必要性が認められるのであって、業務上の必要性が乏しいとする原告の主張を採用できないことも併せ考慮すれば、本件配転命令が、不当な動機・目的によってなされたものと認めることはできない。
(5)被告が本件配転命令を発出した時点において認識していた事情のほか、原告が本件訴訟において提出した各資料を踏まえても、本件配転命令につき、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるとはいえず(原告が単身赴任をするか、原告が長男と共に転居し、母親が単身で居住することとするか、原告が長男及び母親と共に転居するかは、一般的な転居を伴う配転の場合と同様、原告が家族・親族と協議して検討・判断すべきものというべきである。)本件配転命令が権利の濫用となることを基礎づける特段の事情があるとはいえない。
(6)本件懲戒解雇は、原告が本件配転命令に応じなかったことを理由とするものであるところ、本件配転命令が有効である。そして、被告の就業規則においては、業務上必要がある場合には、配転を命じることがあること、職務上の指示命令に反して職場の秩序を乱した場合には、懲戒解雇事由に該当するとされているところ、前記認定したとおりの経過を経て配転命令がなされたにもかかわらず、同命令に応じないという事態を放置することとなれば、企業秩序を維持することができないことは明らかである。
 以上を総合考慮すれば、本件懲戒解雇は、客観的に合理性があり、かつ社会通念上も相当なものといえ、懲戒権の濫用に当たるということはできない。
(7)原告は、P17統括マネージャーが、平成31年4月17日、ほかの多数の従業員の面前で大声で懲戒解雇通知書を読み上げたとの前提に立った上で、同行為が不法行為に該当する旨主張するところ、そのような事実自体が認められない。