全 情 報

ID番号 09465
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 NHKサービスセンター事件
争点 定年後の再雇用、カスタマーハラスメントに係る安全配慮義務
事案概要 (1)本件は、平成14年4月から、1年契約更新で、NHK視聴者コールセンター(現NHKふれあいセンター(放送))において視聴者対応を行うコミュニケーターとして被告(一般財団法人NHKサービスセンター)に採用され、17回にわたり契約更新を行い、平成31年には無期労働契約への転換権を行使し、これが被告において受理されたため、令和元年8月以降契約期間の定めのない労働者となった原告が、60歳の定年を迎える同年末をもって被告を退職することとされ、原告の希望に反し被告に継続雇用されなかったことが、実質的には「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以下「高年法」という。)に反し、労働契約法18条の趣旨に反する雇止めであるとして、被告に対し、原告が被告との間で労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、労働契約に基づく賃金(バックペイ)等の支払を求めるとともに、被告が原告に対し、要注意視聴者に対する刑事や民事上の法的措置をとることなどにより、要注意視聴者によるわいせつ発言や暴言等に触れさせないようにすべき安全配慮義務を怠り、これによって原告が精神的苦痛を受けたとして、雇用契約に基づく付随義務としての安全配慮義務違反に基づき損害賠償(慰謝料)等の支払を求めた事案である。
(2)判決は、原告の請求をいずれも棄却した。
参照法条 労働契約法5条
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条
体系項目 退職/4 定年・再雇用
労働契約 (民事)/ 労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任
裁判年月日 令和3年11月30日
裁判所名 横浜地川崎支
裁判形式 判決
事件番号 令和2年(ワ)284号
裁判結果 棄却
出典 労働経済判例速報2477号18頁
審級関係
評釈論文 植田達(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1572号129~132頁2022年6月
花島正晃・経営法曹214号102~108頁2022年12月
判決理由 〔退職/4 定年・再雇用〕
(1)原告の視聴者に対する電話対応には被告が策定したルール及び就業規則違反が度々認められ、かつそのことを被告から指摘され繰り返し注意・指導を受けるも自己の対応の正当性を主張することに終始してこれを受け入れて改善しようとする意思が認められなかったのであり、被告における評価が極めて低かったこと(平成28年、30年及び令和元年は、原告の評価は被評価者中最下位であった。)も併せ考慮するならば、「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」(平成24年11月9日厚生労働省告示第560号)が定める、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由に該当し、継続雇用しないことについて、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるというほかはない。そして、問題となる原告の電話対応の内容及びその頻度並びにこれまでの被告の原告に対する多数回にわたる注意・指導の経緯及び原告の改善意思の欠如等に鑑みれば、本件継続雇用拒否が重すぎて妥当性を欠くとは認められない。
〔労働契約 (民事)/ 労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任〕
(2)被告においては、視聴者のわいせつ発言や暴言、著しく不当な要求からコミュニケーターの心身の安全を確保するためのルールを策定した上、これに沿って対処をしていることが認められる。
 また、被告は、NHKから業務委託を受けている立場にあり、被告の判断のみでは、受信料を支払っている視聴者に対して刑事告訴や民事上の損害賠償請求といった強硬な手段をとることは困難であること、また、視聴者によるすべてのわいせつ発言、暴言、理不尽な要求等についてかかる強硬な手段をとることは不可能であり、仮にそのような手段に出たときには視聴者の反感を買ってかえってクレームが増加し、コミュニケーターの心身に悪影響を及ぼすおそれすらあることなどを考慮すると、わいせつ発言や暴言、著しく不当な要求を繰り返す視聴者に対し、被告が直ちに刑事・民事等の法的措置をとる義務があるとまでは認められない。
 その他、被告においては、平成26年度から無料のフリーダイヤルで専門のカウンセラーによるメンタルヘルス相談、提携カウンセリング機関で面接による無料のカウンセリングも受けられるようになっているほか、平成28年度からは社会三法(労働基準法、労働組合法、労働関係調整法)適用者を対象に毎年ストレスチェックを実施しており、検査の結果高ストレスと判定され、産業医の面接指導が必要と判断された場合には、希望により面接指導を受けることができるようになっていることが認められるのであり、これらを総合考慮すれば、被告について原告に対する安全配慮義務を怠ったと認めることはできない。