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ID番号 09467
事件名 未払賃金等請求控訴事件
いわゆる事件名 学校法人宮崎学園事件
争点 人件費抑制のための有期契約労働者の賃金減額の有効性
事案概要 (1)本件は、被控訴人が運営するB大学(本件大学)国際教養学部の有期雇用教員の教授として働いていた控訴人が、被控訴人に対し、平成27年4月1日に行った期限付雇用契約教職員の給与等の取扱基準(本件給与基準)の変更(契約期間開始日に60歳を超える教職員を雇用する場合の年俸は、法人本部の査定により理事長が決定する旨定められていた規定を60歳に達した日を含む契約期間の年俸の80%と変更:本件改定)による年俸の減額は、労働契約法9条及び10条に反し無効であり、変更前の本件給与基準が適用されるべきであると主張して、雇用契約に基づく賃金請求権に基づき、〈1〉本件給与基準の変更により控訴人の年俸が減額された平成28年4月1日から本件訴訟が提起された平成31年2月28日までの間に発生した未払賃金合計424万5500円及び遅延損害金の支払、〈2〉本件訴訟提起後の平成31年3月1日から、控訴人が被控訴人を退職する令和2年3月31日までの間の賃金の減額分及び遅延損害金の支払をそれぞれ求め、これらの請求と選択的に、被控訴人が違法な本件給与基準の改定による年俸の減額が反映された有期雇用契約の締結を控訴人に強いたことなどが不法行為に該当し、これにより、控訴人は賃金の減額分相当額の損害を被ったなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、上記〈1〉及び〈2〉と同額の損害金及び遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審が控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人がこれを不服として本件控訴を提起した。
(2)控訴審判決は、原判決を取り消し、本件給与基準の変更による賃金の減額は無効として、控訴人の賃金減額分の未払賃金等請求を認容した。
参照法条 労働契約法9条
労働契約法10条
体系項目 就業規則 (民事) /就業規則の一方的不利益変更/ (3) 賃金・賞与
裁判年月日 令和3年12月8日
裁判所名 福岡高裁宮崎支
裁判形式 判決
事件番号 令和3年(ネ)72号
裁判結果 未払賃金等請求控訴事件
出典 D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則 (民事) /就業規則の一方的不利益変更/ (3) 賃金・賞与〕
(1)本件改定が実施された当時、本件改定がなければ被控訴人が本件改定時はもとより、近い将来において、経営危機に陥る状態にあったということはできず、本件大学の有期雇用教職員の人件費を削減する高度の必要性があったとまでは認められないものの、これまでの人件費抑制策が専ら無期雇用教職員のみを対象とし、本件大学の有期雇用教職員が人件費抑制策の対象とされていなかったことや本件大学の消費収支及び人件費依存率を併せ考慮すると、本件大学の有期雇用教職員の人件費を削減する必要性は相当高かったと認めることができる。
(2)本件改定により、平成28年4月1日以降の控訴人の年俸は20%、金額にして145万5600円減額され、退職時まで合計582万2400円の減額となることからすれば、控訴人の受ける不利益は大きいといわざるをえない。
 本件改定は、これまで6年間にわたって据え置いてきた60歳を超える教員の年俸を一挙に20%減額するものであり、減額に伴う不利益緩和のための経過措置や代償措置もとられていないこと、無期雇用教職員に対する人件費抑制策が各年齢、各職階の教職員の人件費を抑制するものであるのに比べて、国際教養学部内の教員間に不均衡を生じさせる結果となっていること、控訴人は、本件改定前は准教授の地位にあったところ、本件改定後の平成29年4月には教授に昇進し、より重い職責を担うことになったにもかかわらず、その年俸は改定前に准教授の地位にあった時のものより20%も減額されていることなどを総合勘案すると、本件改定内容は控訴人が受ける不利益に見合うだけの相当性を有していたと認めることはできない。
(3)労働組合と2回の団体交渉を行ったのみで、交渉は決裂したとして、平成27年4月1日から本件改定を実施しているところ、本件改定の必要性の程度、労働者の受ける不利益の程度及び本件改定内容の相当性を踏まえると、労働組合が提示した年俸の5%を減額するとの提案が検討に値しないものであるということはできないから、この提案を軸にして、さらに本件組合と交渉を行う余地はあったと認められるし、20%の減額を前提とするにしても、減額に伴う不利益緩和のための経過措置や代償措置について提案するなどして、さらに協議を続けることは可能であったとも考えられるから、被控訴人が本件組合との交渉による利益調整を十分に行ったとまで認めることはできない。
(4)本件改定は、それにより控訴人に生じる実質的な不利益が大きく、改定内容について控訴人が受ける不利益に見合うだけの相当性を有しているとは認められず、そのような不利益を控訴人に受忍させることがやむを得ない程度の高度の必要性に基づいたものともいえないから、労働契約法10条にいう合理的なものであると認めることはできない。
 したがって、本件改定は、控訴人に対して効力を生じない。