ID番号 | : | 09468 |
事件名 | : | 未払賃金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 洛東タクシー事件 |
争点 | : | タクシー運転者の流し等の労働時間性 |
事案概要 | : | (1)本件は、タクシー乗務員として被告(洛東タクシー株式会社)に勤務していた原告らが、被告が〈1〉タクシーの営業として合理的とはいえない長時間の乗客なしの走行時間(長時間ドライブ)、〈2〉車庫内で機器にSDカードを挿入した後、車庫を出て営業車両を短時間使用した上で、すぐに車庫に戻した場合の、その営業車両の使用時間(出庫前休憩)、〈3〉各原告が定型的に休憩場所としている場所に向かう時間(休憩場所に向かう時間)及び〈4〉定型的に休憩場所としている場所から定型的に客待ちをする場所に戻る時間(休憩場所から戻る時間)の4つの類型に該当する時間について、いずれも労働時間に当たらないとしていたのに対し、当該時間は労働時間であるなどとして未払の時間外割増賃金及び労働基準法114条に基づき付加金の支払等を求めた事案である。 (2)判決は、上記の時間は労働時間であるとして、未払の時間外割増賃金及び労働基準法114条に基づき付加金の支払等を命じた。 |
参照法条 | : | 労働基準法32条 労働基準法37条 |
体系項目 | : | 労働時間 (民事)/ 労働時間の概念 |
裁判年月日 | : | 令和3年12月9日 |
裁判所名 | : | 京都地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成29年(ワ)第3728-1号 平成30年(ワ)第923号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働時間 (民事)/ 労働時間の概念〕 (1)原告らは、それぞれが慣れた経路や地域を中心に、各自の経験に基づいて客を見つけることができると考える場所を「流し」で走行していたものであって、乗客なしの走行をしている間、原告らが行燈の表示を回送等にするなど、およそ客の乗車が想定されない状態にしていたことはうかがわれない。 原告らが、客を乗せることなく、長時間走行していたとしても、そのことから直ちに、当該時間について労働から解放されていたとは認め難く、むしろ乗車を希望する客がいた場合には、すぐに客を乗車させて運送業務を行うこととなるのであるから、当該時間についても労働契約上の役務の提供が義務付けられていたものであり、被告の指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当である。 したがって、被告が「長時間ドライブ」として否認する時間は、労働時間に当たるというべきである。 (2)たとえコンビニエンスストアに向かって走行する時間などであっても、走行中に乗車希望の客が見つかった場合には、乗車を拒否することはできず、当該客を乗せることになるのであり、また、上記走行中、原告らが行燈の表示を回送等にするなど、およそ客の乗車が想定されない状態にしていたことはうかがわれない。 そうとすれば、たとえ短時間の走行であっても、当該時間についても労働契約上の役務の提供が義務付けられていたものであり、被告の指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当である。 また、原告らは、SDカードの挿入後に、ときには、燃料を入れるために社内のスタンドまで、若しくは車両整備のために社内の整備部門まで、又は職員と業務上のやり取りをするために事務所や相談室まで、それぞれ営業車両を走行させることがあるが、これらの走行時間も被告が「出庫前休憩」として否認する時間の中に含まれているものと考えられるところ、当該走行時間は、運送業務に必要な付随業務として、労働時間であると認められる。 (3)たとえ原告らが好みの休憩場所に向かって走行する時間であっても、「空車」の行燈を点灯させて走行しており、その途中に乗車希望の客がいた場合には、当該客を乗車させて客の目的地まで走行することになるのである。 そうとすれば、原告らが休憩場所に向かう時間については、休憩時間とは異なり、労働契約上の役務の提供が義務付けられていたと評価でき、労働からの解放が保障されているとはいえず、被告の指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当である。 したがって、被告が「休憩場所に向かう時間」として否認する時間は、労働時間に当たるというべきである。 同様に、休憩場所から戻る時間についても、「空車」の行燈を点灯させて走行しており、その途中に乗車希望の客がいた場合には、当該客を乗車させて客の目的地まで走行することになるのである。 そうとすれば、休憩が終わった後の上記走行時間については、労働契約上の役務の提供が義務付けられていたと評価でき、労働からの解放が保障されているとはいえず、被告の指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当である。 したがって、被告が「休憩場所から戻る時間」として否認する時間は、労働時間に当たるというべきである。 (3)本件訴訟の推移、被告の主張立証の内容など、本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、付加金の支払を命ずるのが相当である。 |