ID番号 | : | 09470 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | アンドモワ事件 |
争点 | : | 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う整理解雇 |
事案概要 | : | (1)本件は、原告は、被告(令和2年初め頃の時点で、全国に飲食店約300店舗を展開していた株式会社)との間で期間の定めのない労働契約を締結し、3店舗の店長として就労していた。被告が経営する居酒屋は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による外食自粛の影響を大きく受け、緊急事態宣言の発出も相俟って、令和2年4月上旬頃被告は原告が店長をしていた店の営業を停止し、原告ら従業員に休業を命じ、緊急事態宣言の解除後も来客が激減して売上げが大きく落ち込み、回復の見通しも立たなくなったことなどから、最終的に存続させる店舗を約10店舗にまで絞り込み、その中に原告が勤務していた三つの店舗は含まれていなかったことにより、原告は同年7月20日付けで解雇(以下「本件解雇」という。)された。 このため、原告はこの解雇は解雇権を濫用したものとして無効であるとして、被告に対し、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、令和2年5月分から同年8月分までの未払賃金等の支払を求め、さらに、本件解雇は違法であり不法行為に当たると主張して、不法行為に基づき慰謝料等の支払を求める事案である。 (2)判決は、本件解雇を無効とし、原告が労働契約上の権利を有する地位にあること及び未払賃金等の支払請求については認容し、慰謝料等の支払請求については棄却した。 |
参照法条 | : | 労働契約法16条 |
体系項目 | : | 解雇 (民事) /整理解雇/ (5) 協議説得義務 |
裁判年月日 | : | 令和3年12月21日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和2年(ワ)24901号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1266号74頁 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 確定 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇 (民事) /整理解雇/ (5) 協議説得義務〕 (1)被告は、本件解雇の有効性については、本件解雇が事業の完全停止に伴い行われたものであるという事案の特性に照らし、〈1〉事業停止の必要性と〈2〉手続の相当性から相関的に判断すべきであると主張する。しかしながら、企業が自由にその事業を廃止できることは、それに伴い労働者を自由に解雇することができることを意味するわけではないから、仮に被告の事業の完全停止が事業の廃止に準ずるといえるような状態であったとしても、人員削減の必要性や解雇回避の努力といった要素について考慮する必要がないとはいえないし、また、本件解雇当時、被告はいまだ事業の存続を目指していたものであり、どの労働者を解雇するかという人選の問題は生じていたものであるから、被解雇者選定の合理性を考慮要素から除外すべき理由もない。この点に関する被告の主張は採用しない。 (2)本件解雇当時、被告には相当高度の人員削減の必要性があったと認められ、当時の状況に照らすと、解雇回避のために現実的にとることが期待される措置は限定されていたことがうかがえ、被解雇者の選定も不合理であったとは認められない。しかしながら、被告は、休業を命じていた原告に対し、一方的に本件解雇予告通知書を送り付けただけであって、整理解雇の必要性やその時期・規模・方法等について全く説明をしておらず、その努力をした形跡もうかがわれない。上記のとおり相当高度な人員削減の必要性があり、かつ、そのような経営危機とも称すべき事態が、主として新型コロナウイルス感染症の流行という労働者側だけでなく使用者側にとっても帰責性のない出来事に起因していることを考慮しても、本件解雇に当たって、本件解雇予告通知書を送付する直前にその予告の電話を入れただけで、それ以外に何らの説明も協議もしなかったのは、手続として著しく妥当性を欠いていたといわざるを得ず、信義に従い誠実に解雇権を行使したとはいえない。 したがって、本件解雇は、社会通念上相当であるとは認められず、解雇権を濫用したものとして、無効である。 |