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ID番号 09471
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 日立製作所(降格)事件
争点 違法な退職勧奨と降格の無効
事案概要 (1)本件は、被告会社(株式会社日立製作所)の従業員である原告が、被告会社に対し、被告会社から違法な退職勧奨を受けたと主張して、〈1〉不法行為に基づく損害賠償として慰謝料300万円等の支払を求めるとともに、被告会社は、原告が上記退職勧奨に応じなかったことに対する制裁等の目的で、原告を主任技師から技師に降格し(以下、この降格を「本件降格」という。)、これに伴い賃金を減額したが、これらは人事権の濫用として無効であると主張して、労働契約に基づき、〈2〉原告が被告会社の主任技師の地位にあることの確認と、〈3〉本件降格前の給与額と本件降格後の平成30年10月分の給与額の差額10万7000円等の支払を求める事案である。
(2)判決は、原告のいずれの請求も棄却した。
参照法条 民法709条
労働契約法
体系項目 退職/退職勧奨
裁判年月日 令和3年12月21日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成31年(ワ)5773号
裁判結果 棄却
出典 労働判例1266号56頁
労働経済判例速報2477号3頁
審級関係 控訴
評釈論文 鈴木銀治郎・労働経済判例速報2477号2頁2022年5月20日
判決理由 〔退職/退職勧奨〕
(1)被告会社が原告を対象にして行った、株式会社Q1が主催する「キャリア・チャレンジ研修」(以下「本件研修」という。)及び本件研修後のP1部長の面談における言動並びに引き続き行われた「キャリア・チャレンジ研修:フォローアップ研修」(以下「本件フォローアップ研修」という。)に退職勧奨の趣旨も含まれていたことは明らかであるというべきである。
(2)本件研修が原告ら参加者の自由な意思形成を妨げるほどの執拗さや態様で行われたとまでは認めることができない。
 P1部長による退職勧奨が、社会通念上相当とは認められないほどの執拗さで、原告に不当な心理的圧力を加えて退職を迫ったものであるとまでは認めることができない。
 本件フォローアップ研修も、原告が退職勧奨に応じる意思がないことを明らかにしていたにもかかわらず行われたという点は問題となり得るものの、社会通念上相当と認められないほどの執拗さや態様で原告に退職を迫ったことを認めるに足りる証拠はなく、また、原告が不当な退職勧奨であると抗議するや、途中で中止され、それ以上、原告に退職を働きかけることをしていないことに照らすと、原告の自由な退職意思の形成を妨げるほどのものであったとまではいえず、違法であるとまでは認められない。
 以上によれば、本件研修及び本件研修後のP1部長の面談における言動並びに本件フォローアップ研修が違法であったとは認められず、これらが不法行為を構成することを前提とする原告の損害賠償請求は理由がない。
(3)本件就業規則40条は、被告会社は「業務上の都合により社員を配転または転籍出させることがある。」旨を定めているところ、被告会社では「配転」に昇格や降格も含めている。また、本件賃金規則4条は、本給は職群等級別・職種別に定められたレンジの範囲で決定されると定めており、昇格や降格によって職群等級や職種が変更された場合には、これに応じて本給の額が変動する仕組みが採られている。
 したがって、被告会社は、本件労働契約に基づく人事権の行使として、人事考課による査定の結果等を考慮して、労働者を降格することができ、また、これに伴い、労働者の個別的同意がなくても、本件賃金規則等に基づいて賃金を引き下げる権限を有していることが認められる。
(4)原告が平成29年1月の復職後、全く売上げを上げることができず、管理職である主任技師に期待される所属部署の業績への貢献を十分に果たすことができなかったため、平成28年度下期、平成29年度上期及び下期と、連続で賞与の最低評価が続いていたことに加え、平成30年5月に上長のP2部長から平成30年度上期(平成30年4月から同年9月まで)に売上目標を達成できなかった場合には主任技師から技師への降格を予定している旨を告げられたにもかかわらず、平成30年度上期も全く売上げを上げることができなかったことに照らすと、被告会社が、原告を主任技師から技師へ降格したこと(本件降格)については、業務上の必要性があったと認められる。
 本件降格が不当な動機・目的を持ってされたものであったとは認められない。
 月俸から本給への減給額(月額10万7000円)は大きいものの、本件降格後の本給の額やこれとは別に裁量労働勤務手当(12万2915円)が支給されていることに照らすと、本件降格及びこれに伴う減給が、原告に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとも認められない。
 したがって、本件降格及びこれに伴う減給が人事権の濫用として無効であることを前提とする、原告の地位確認請求及び差額賃金請求も理由がない。