ID番号 | : | 09475 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ケイ・エル・エム・ローヤルダツチエアーラインズ事件 |
争点 | : | 訓練契約が労働契約に該当するか否か |
事案概要 | : | (1)本件は、オランダの航空会社である被告との間で、契約期間を平成26年5月27日から平成29年5月26日までの3年間とする有期労働契約(以下「本件労働契約〈1〉」という。)及び契約期間を同年5月27日から令和元年5月26日までの2年間とする有期労働契約(以下「本件労働契約〈2〉」といい、本件労働契約〈1〉と併せて「本件各労働契約」という。)を締結し、客室乗務員として勤務していた原告3人が、本件労働契約〈1〉の前に被告との間で締結した訓練契約(契約期間は平成26年3月24日から同年5月26日までの間。以下「本件訓練契約」という。)が労働契約に該当し、被告との間で締結した有期労働契約の通算契約期間が5年を超えるから、本件労働契約〈2〉の契約期間満了日までに被告に対して期間の定めのない労働契約の締結の申込みを行ったことにより、労働契約法18条1項に基づき、被告との間で期間の定めのない労働契約が成立したものとみなされると主張して、被告に対し、〈1〉期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、〈2〉本件労働契約〈2〉の期間満了日の翌日である令和元年5月27日から本判決確定の日まで毎月末日限り36万9611円の賃金(ただし、令和元年5月分については既払の日割り計算分を控除した5万9615円)等の支払を求める事案である。 これに対し、被告は、本件訓練契約は労働契約に該当せず、各原告との間で締結した有期労働契約の通算契約期間は5年を超えないから、労働契約法18条1項の要件を欠く旨を主張して争っている。 (2)判決は、訓練契約は労働契約に該当するとして、労働契約法18条1項に基づき期間の定めのない労働契約が成立したとして、判決確定日までの賃金の支払を命じた。 |
参照法条 | : | 労働契約法6条 労働契約法18条 労働基準法9条 |
体系項目 | : | 労働契約 (民事)/ 成立 |
裁判年月日 | : | 令和4年1月17日 |
裁判所名 | : | 東京地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和1年(ワ)23599号 /令和1年(ワ)23600号 /令和1年(ワ)23601号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1261号19頁 労働経済判例速報2480号22頁 裁判所ウェブサイト掲載判例 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | 東志穂・経営法曹214号76~101頁2022年12月 |
判決理由 | : | 〔労働契約 (民事)/ 成立〕 (1)本件訓練は、教育的性格を有するものであるが、このことと労務の提供とは両立し得るものであるから、本件訓練期間中に原告らが被告に対して労務を提供しているといえるか否かを個別具体的に検討すべきである。 これを本件についてみると、たしかに、客室乗務員認証を取得し、かつ、機種別訓練を修了しているという要件を満たさない訓練生は、EU委員会規則により、正規の客室乗務員として乗務することはできない。 しかしながら、①本件訓練の内容は、EU委員会規則の要求する基準に準拠しつつも、被告が作成した教材や被告独自のマニュアルに従い、被告の航空機や設備等の仕様及びこれを踏まえて策定された保安業務や、就航する路線や客層に合わせたサービス業務等の内容に則ったものであり、他の航空会社と異なる被告に特有の内容を多分に含んだものである。そして、他の航空会社において訓練を終了して客室乗務員認証を取得し、機種別訓練を修了していたとしても、本件訓練を受講して、被告独自の保安業務や客室サービス業務に習熟しなければ、実際に被告において客室乗務員として就労することは困難であることが認められる。以上に加えて、②被告は、本件訓練契約の締結に先立ち、被告の客室乗務員採用選考に応募した各原告に対し、健康診断と身元確認の条件付きとはいえ、被告のアジア人客室乗務員として採用する旨を通知した上、本件各労働契約において継続して使用する社員番号、レターボックスや制服を付与していること、③本件訓練に引き続いて本件労働契約〈1〉が締結され、原告らの被告における客室乗務員としての勤務が開始されていること、④被告は、客室乗務員認証の取得の有無や機種別訓練の修了又は搭乗経験の有無にかかわらず、訓練生に対して一律に同内容の訓練を実施していること、⑤本件訓練契約において、訓練生は、本件訓練を修了した後に被告との間で労働契約を締結することを拒否した場合には、被告が被る訓練費用相当額の損失について支払義務を負うものとされていたことからすれば、本件訓練は、訓練生が本件訓練に引き続いて被告において客室乗務員として就労することを前提として、そのために必要な知識や能力を習得するために実施されたものであって、被告の運航する航空機に乗務する客室乗務員を養成するための研修であったと認められる。 また、⑥被告が各原告に対して本件訓練の訓練手当を支払うに当たって所得税の源泉徴収を行っていること、⑦被告が原告らに対して交付した推薦状や証明書において、原告らが客室乗務員としての稼働を開始した時期を本件訓練契約の始期と記載していること、⑧被告が現在、日本人客室乗務員との間で、労働契約とは別個の訓練契約を締結することはせず、労働契約の締結後に本件訓練と同様の訓練を実施していることは、いずれも、被告において本件訓練を受講中の訓練生を労働者であると認識していたことを推認させるものである。 そうすると、本件訓練期間中、訓練生が正規の客室乗務員として乗務することがなかったとしても、本件訓練に従事すること自体が、被告の運航する航空機に客室乗務員として乗務するに当たって必要不可欠な行為であって、客室乗務員としての業務の一環であると評価すべきであり、原告らは、被告に対し、労務を提供していたと認めるのが相当である。 (2)さらに、被告の客室乗務員として乗務するためには本件スケジュールに従って本件訓練を受講し、これを修了するほかないのであるから、本件訓練期間中、原告らには訓練内容について諾否の自由はなく、原告らは、時間的場所的に拘束され、被告の指揮監督下において本件訓練に従事していたこと、原告らに代わって他の者が本件訓練に従事することは想定されておらず、代替性もなかったことが認められる。したがって、本件訓練期間中の原告らは、使用者である被告の指揮監督下において労務の提供をする者であったと認められる。 (3)他方、被告が、各原告に対し、本件訓練期間中、2週間ごとに1055ユーロもの日当を支払い、本件訓練終了後に訓練手当として18万8002円を支払い、これを所得税の源泉徴収の対象としていたこと、これらの合計には全ての法定の手当が含まれるとされていること、本件訓練が途中で終了した場合には、訓練生に支払われる訓練手当は、実際の訓練契約の長さに従って計算されるとされていることからすれば、上記の訓練手当及び日当の支払は、本件訓練に従事するという労務の提供に対する対償としてされたものであり、原告らは、労務に対する対償を支払われる者であったことが認められる。 (4)以上によれば、本件訓練期間中の原告らは、労働契約法及び労働基準法上の労働者であることが認められるから、本件訓練契約は労働契約に該当するというべきである。 したがって、各原告と被告との間で締結された有期労働契約の契約期間を通算した期間は5年を超えるから、被告は、労働契約法18条1項に基づき、本件各申込みを承諾したものとみなされる。 |