ID番号 | : | 09481 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 学校法人羽衣学園(羽衣国際大学)事件 |
争点 | : | 雇止めに係る大学教員任期法の適用の有無 |
事案概要 | : | (1)私立大学を設置する学校法人である被告は、契約期間を平成25年4月1日から3年間とする労働契約(以下「本件労働契約」という。本件労働契約はその後更新され平成31年3月31日までの契約期間となった)を締結して同大学の専任教員を務めていた原告に対し、本件労働契約を更新せず、平成31年3月31日をもって契約期間満了による雇止めをした。 原告は、〈1〉複数ある有期労働契約の通算契約期間が5年を超えており、原告が労働契約法18条1項に基づく期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)の締結の申込み(以下「無期転換申込み」という。)をしたことにより、被告との間に無期労働契約が締結された、〈2〉仮に、無期転換申込みによる無期労働契約の成立が認められないとしても、原告には有期労働契約の更新を期待するにつき合理的な理由があり、また、雇止めは客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとして、労働契約法19条により、有期雇用契約が継続している、〈3〉原告と被告との間で、有期労働契約の期間満了後に、無期労働契約を締結する旨の合意が成立した旨主張し、被告に対して、原告が労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、賃金等の支払を求め、さらに、雇止めをして労働契約終了の扱いをした被告の対応が不法行為に当たる旨主張して、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料100万円の支払を求めるものである。 これに対し、被告は、〈1〉原告につき、労働契約法18条1項の特例である大学の教員等の任期に関する法律(以下、「大学教員任期法」という。)7条1項が適用される結果、無期転換申込みに係る権利(以下「無期転換権」という。)の発生までの通算契約期間は10年を超えることを要することとなるから、原告には未だ無期転換権が発生しておらず、〈2〉原告につき労働契約法19条の要件は充足されていない、〈3〉有期労働契約の期間満了後に、無期労働契約を締結する旨の合意は成立していない、〈4〉被告の対応に違法な点はない旨主張して争うものである。 (2)判決は、原告の請求をいずれも棄却した。 |
参照法条 | : | 労働契約法6条 労働契約法18条 労働契約法19条 大学の教員等の任期に関する法律5条 大学の教員等の任期に関する法律7条 |
体系項目 | : | 解雇 (民事)/ 短期労働契約の更新拒否 (雇止め) |
裁判年月日 | : | 令和4年1月31日 |
裁判所名 | : | 大阪地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和1年(ワ)4783号 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例1274号40頁 労働経済判例速報2476号3頁 労働法律旬報2011号37頁 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | 末啓一郎・労働経済判例速報2476号2頁2022年5月10日 高仲幸雄・経営法曹214号109~123頁2022年12月 |
判決理由 | : | 〔解雇 (民事)/ 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)〕 (1)雇用期間が明確に示されれば、任期の定めとして一義的に理解できるほか、被告大学の本件任期規程「別表1」の内容に照らせば、大学教員任期法適用の対象とされた教員の範囲や任期も特定されているといえ、大学教員任期法5条2項にいう「任期を定める規則」として必要な事項の定めはあるといえる。 (2)原告は、本件労働契約に基づき、被告大学において専任教員と称される「講師」の地位にあったところ、「講師」は、学校教育法上、専攻分野について学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事するものとされる「教授」又は「准教授」に準ずる職務に従事する職である旨位置付けられており(学校教育法92条参照)、多様な人材の確保が特に求められるべき教育研究組織の職たり得るものである。 本件労働契約に基づく原告の地位は、大学教員任期法4条1項1号のうち「その他の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性に鑑み、多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職」に該当すると認められる。 (3)10年特例が設けられた大学教員任期法の一部改正に係る経過措置の規定によれば、同改正法の一部施行(平成26年4月1日)前に労働契約法18条1項で規定する通算契約期間が5年を超えることとなった労働契約の無期転換の申込みについては「なお従前の例による」(すなわち、一部改正後の大学教員任期法の適用を受けない。)とされている。 しかるところ、本件労働契約は、その平成25年4月1日を始期とし、更新後の契約期間は平成31年3月31日であるから、上記経過措置の規定の適用を受けるものではない。 (4)以上によれば、本件労働契約に10年特例を含む大学教員任期法が適用され、原告主張に係る本件無期転換申込みによる始期付無期労働契約の成立は認められない。 (5)原告は、本件労働契約の締結に際して、「再任は1回のみ」と明記された本件募集要領を確認の上、被告大学の専任教員に応募したものであるところ、かかる記載内容は、2回目の再任がないことを直接的かつ具体的に示したものにほかならない。また、原告は、本件募集要領に基づく採用面接時においても、被告から、再任される場合であってもそれは1回限りである旨の説明を受け、更には任期の記載のある辞令書の交付も受けていた。 また、原告は、遅くとも被告大学の専任教員就任後(本件労働契約締結後)には、他の専任教員らとの間で自らが所属する人間生活学科生活福祉コースの存続が困難であるとの認識等を共有しており、本件労働契約の更新前である平成27年5月の全学教授会において生活福祉コースの学生募集停止について審議ないし報告がされたことにより、教授会の構成員である原告は自身が所属する生活福祉コースが近年中に廃止されることをより具体的かつ現実的なものと認識したものである。 加えて、原告は、平成27年8月、P1事務局長から、再任が1回のみである旨念押しする趣旨のメールを送信されており、このような認識を一層強めたものと認められる。 そして、本件労働契約の更新に先立つ面談においても、原告は、P1事務局長らから、「採用時の公募要領にある通り、再雇用は1回限りとなっているため、本人が継続雇用を希望する場合であっても、今回の再雇用の任期をもって雇用契約を終了する」との被告の方針について説明されるなどし、その上で、原告は、本件労働契約を更新するに際して、本件不更新条項が記載された契約書に署名押印したというのである。 以上のほか、本件労働契約の更新後、原告が懲戒処分を受けたものであること、上述の大学教員任期法の目的や立法過程における議論にもみられるように大学の教員の雇用については一般に流動性があることが想定されていること等の本件に現れた事情を併せ考慮すれば、原告は、本件労働契約の更新につき、合理的な期待を有するものということはできない。 (6)原告が指摘するような交渉経過や発言内容(Y理事長は、原告が本件労働契約についての交渉窓口としていた本件労働組合のP3委員長に対し、「X先生には気持ちよく大学に戻ってきてもらいたいと思っている。」、「このことは理事長の職権として、学長と事務局長に指示する。」等と発言)等を踏まえてもなお、本件理事長発言は、Y理事長の一存で決定できる事項の範ちゅうを超えるY理事長の個人的な意向の表明にすぎないと解され、それ以上に原告主張に係る労働契約の成立に関する意思表示とみることはできない。 本件理事長発言は、原告がした無期労働契約締結の申込みに対する承諾の意思表示であるとは解されず、本件理事長発言によって、原告と被告のとの間に無期労働契約が締結されたと認めることはできない。 |