ID番号 | : | 09482 |
事件名 | : | 雇用契約上の地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 欧州連合事件 |
争点 | : | 能力不足による解雇の有効性 |
事案概要 | : | (1)本件は、被告(欧州連合:2009年にリスボン条約が発効したことにより、欧州共同体の地位を承継した欧州における国家の統合体)と雇用契約を締結し、平成20年7月1日から駐日欧州連合代表部の広報官として、当初は、代表部のウェブサイト管理に関する業務に加え、テレビ等の電子メディアとの関係構築等の業務を担当していたが、平成23年2月以降は、テレビ等に関する業務が除かれ、主に代表部のウェブサイト管理に関する業務に従事していた原告が、平成28年1月27日付けで被告がした解雇について解雇権濫用により無効であると主張し、被告に対し、〈1〉雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、〈2〉平成28年2月支払分以降の賃金等の支払を求める事案である。 (2)判決は、原告の請求を棄却した。 |
参照法条 | : | 労働契約法16条 |
体系項目 | : | 解雇 (民事)/ 解雇事由/ (3) 職務能力・技量 |
裁判年月日 | : | 令和4年2月2日 |
裁判所名 | : | 東京地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成31年(ワ)822号 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働経済判例速報2485号23頁 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 岡崎教行・経営法曹216号104~111頁2023年6月 |
判決理由 | : | 〔解雇 (民事)/ 解雇事由/ (3) 職務能力・技量〕 (1)広報官としての原告の役割は当然に重要なものであることに加え、募集要項において、2年以上のウェブサイト管理の経験を含む5年以上の実務経験がある旨の記載がされていたことや、原告の給与額が一般的には高額なものといえること等の事情も考慮すれば、原告は、相当の実務経験を有する中途採用者として、主にウェブサイトに関する高度な専門性に加え、組織内の秩序に従い他の職員と協働して業務を行う高い能力が求められていたというべきである。 (2)原告は、〈1〉平成21年2月17日に行われたテレビ収録の際、大使に対するブリーフィングが行われていなかったことにより収録に支障が生じ、そのことに関し、代表部から文書により注意、指導を受けたこと、〈2〉同年12月4日、代表部から同日中に行う旨の指示を受けていたファイル作成業務を放置し、Bに連絡することなく大使等の外務省訪問に同行したこと、〈3〉同年、Bからアウトルックのスケジュールを広報部門の職員と共有する旨の指示を受けたが、3か月以上にわたり応じていなかったこと、〈4〉平成23年9月のイベントの企画に関し、関係者から求められた連絡に対し長期間回答せず、さらに、Bから関係者との連絡状況を尋ねられたのに対して事実と異なる回答をしたことが認められる。 (3)原告は、本件雇用契約に基づき、組織内の秩序に従い他の職員と協働して業務を行う高い能力が求められていたことからすれば、上司の指揮命令に従い、適切に報告を行う義務を負うことは当然である。それにもかかわらず、原告は、上記(2)〈1〉、〈2〉及び〈3〉のとおり、上司からの指示に反することを繰り返し、また、上記(2)〈4〉のとおり、上司に対する報告の懈怠ないし虚偽の報告を行っているのであり、上記の義務に反していることは明らかである。 平成24年度から平成26年度の原告の評価報告書において、チームワークの能力の項目が、継続して最低の評価とされていることも考慮すれば、原告の指揮命令違反の程度は著しいものであり、「職務の遂行において不適格である」との解雇事由に該当すると認められる。 (4)原告は、上司から指示された業務の期限を徒過することを繰り返し、業務改善のために作成された業務遂行合意書により定められた複数の業務についても期限内に履行することができなかったものであり、期限管理能力が欠如していることは明らかである。そして、平成24年度から平成26年度の原告の評価報告書において、実行の速度、責任感又は義務感の項目が、継続して最低の評価とされていることも考慮すれば、原告の期限管理能力の欠如の程度は著しいものであり、「職務の遂行において不適格である」との解雇事由に該当すると認められる。 (5)原告は、ウェブサイトに関する高度な専門性のみならず、組織内の秩序に従い他の職員と協働して業務を行う高い能力が求められていたところ、原告は、上司からの指揮命令違反、期限管理能力の欠如等により、かかる能力が欠如していたと認められるのであるから、原告の指摘する事情を考慮しても、原告の能力不足が認められるというべきである。 以上のとおり、原告は、他の職員と協働して円滑に業務を遂行する能力に欠けていたと認められる。したがって、これらの事実は、上記(3)及び(4)の事情と併せて「職務の遂行において不適格である」との解雇事由に該当すると認められる。 (6)原告は、被告からの注意、指導に対して改善の姿勢を示さず、かえって、公平な評価がされていないとして反抗的な態度を示していることからすれば、被告の注意、指導により、原告の勤務態度の改善が期待できるものとは認められない。 したがって、原告の職務遂行に対する適格性の欠如は、注意、指導によっても改善することが期待できない重大な程度に達しているというべきである。 (7)原告は、代表部における広報官として、組織内の秩序に従い、他の職員と協働してウェブサイトの管理等の業務に従事すべき義務を負うところ、前記の事情に照らせば、同業務への適格性を欠くものと認められる。そして、かかる適格性の欠如が採用当初から継続しており、注意、指導により改善することが期待できないものであることからすれば、原告の適格性欠如の程度は、労働契約の継続を期待することが困難な状態に達しているというべきである。 したがって、原告は、本件就業規則32条3項所定の「職務の遂行において不適格である」に該当するものとして、本件解雇の客観的合理的理由が認められる。 (8)原告は、本件雇用契約において職種及び業務内容を定めて契約を締結したものであり、同業務の遂行能力に問題がある場合、配置転換を行うことが想定されているものではなく、また、原告に求められる職務能力の程度に鑑みれば、指導等による改善が想定されているということもできない。また、被告は本件解雇に先立ち繰り返し、注意、指導を行っており、原告の職務遂行への不適格性は重大な程度に達しているといえることからすれば、原告に対して懲戒処分等の措置をとることにより、職務遂行能力の改善が期待されるものとも認められない。 したがって、解雇に先立ち配置転換又は譴責、降格等の懲戒処分がされていないとしても、本件解雇が社会的に不相当ということはできない。 (9)代表部は、本件解雇に先立ち、平成27年11月18日付けで、原告に対し、原告の業務遂行能力に関する聴聞会を同月26日に開催する旨を通知していることからすれば、原告に対して本件解雇に対する事情聴取の機会を付与していたということができる。これに対し、原告がうつ病による休職を理由に同聴聞会への出席に応じていないとしても、原告が自ら弁明の機会を放棄したと解することが相当である(なお、原告の休職が被告における業務を原因とするものと認めるに足りる証拠はない。)。 |