ID番号 | : | 09483 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 高島事件 |
争点 | : | 年休の時季指定の有効性 |
事案概要 | : | (1)本件は、被告(高島株式会社)との間で労働契約を締結して総務・人事統括部長として就労していた原告が、医師からストレス反応のため今後2か月間の自宅療養が必要であるとの診断を受け、令和元年6月10日付け休職命令(当初は同年7月31日までの期間)、及び当該休職期間延長のため7月29日付け休職命令によって休職していたが、同年9月9日の満了をもって、自然退職扱いとされた。そのため、原告は、被告によって令和元年6月30日までの労働日に関する年休取得を不当に拒否された上、違法な休職命令を発令されたため、勤続年数が短くなり、その結果就業規則で定められた休職期間も短くなったから、被告が原告を休職期間満了による自然退職扱いとしたのは無効であるとして、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき賃金等の支払を求めた事案である。 (2)判決は、原告による年休の時季指定権の行使を認めず、原告の主張を棄却した。 |
参照法条 | : | 労働基準法39条 |
体系項目 | : | 年休 (民事)/ 時季指定権/ (2) 指定の方法 |
裁判年月日 | : | 令和4年2月9日 |
裁判所名 | : | 東京地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和2年(ワ)4790号 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例1264号32頁 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | 野谷聡子・労働法律旬報2025号22~27頁2023年2月10日 平木健太郎・民商法雑誌159巻2号68~78頁2023年6月 |
判決理由 | : | 〔年休 (民事)/ 時季指定権/ (2) 指定の方法〕 (1)年次有給休暇は、労働者が形成権として時季を指定する権利(時季指定権)を有するものであり、労働者が使用者に対し自ら有する休暇日数の範囲内で具体的に休暇の始期と終期を指定したときに、使用者が時季変更権を行使しない限り、使用者の承認を待たずに労働者の時季指定権の行使によって成立するものであり(最高裁判所第二小法廷昭和48年3月2日判決・民集27巻2号191頁〈全林野白石営林署事件〉参照)、労働者の意思のみで当該労働日の就労義務を消滅させる効果を発生させるから、時季指定した休暇の始期と終期は明確なものであることを要するというべきである。 (2)原告は、6月5日付けメールにより令和元年6月30日までの労働日に関する年休の時季指定権を行使したと主張する。しかし、同メールの内容は、「今月3日からは年休をいただき、その後は病欠でお願い致します。」というものであって、年休の終期について一義的に明確ではなく、多義的な解釈が可能であり、現に原告の直属の部下であり社会保険労務士の資格を有するBは、休職の発令日まで年休を取得し、その後は休職扱いにしてほしいという内容であると理解しているのであって、同メールにより年休の終期を同月30日までとする時季指定権を行使したとは認められない。 しかも、原告は令和元年6月5日時点で時季指定権を行使していない年休日数は15日であり、同月30日までの労働日は18日であったから、客観的に見ても同月30日までの年休の時季指定権を行使することは不可能である。 (3)原告が令和元年6月5日及び同月10日のいずれにおいても同月30日までの年休の時季指定権を行使したとは認められないが、このことは総務・人事統括部長の地位にあった原告が年休の残日数を明確に認識していなかったにもかかわらず残日数について確認をせず、Bの指示に従って産業医の面談を受け、本件休職命令が違法、無効であると被告に抗議したことは一度もなく、退職手続に異議を全く述べないまま自然退職扱いとなったという経緯とも符合するものである。 したがって、本件休職命令は原告が年休取得中に発せられたものではないから、違法、無効とはいえず、本件休職命令の期間である同年9月9日を経過したことを理由とする原告に対する自然退職扱いも無効であるとはいえない。 |