ID番号 | : | 09484 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 葵宝石事件 |
争点 | : | 業務に起因する休職期間の満了による退職の有効性 |
事案概要 | : | (1)本件は、貴金属・宝石等の販売を業とする被告(株式会社葵宝石)に雇用され、販売、経理等の業務に従事していた原告が、被告の業務に起因して精神疾患を発症して平成26年6月4日から休業し、平成29年10月30日付けで休職期間満了により退職となるとの通知により退職を強要されたところ、同退職取扱いは無効であるとして、〈1〉労働契約上の権利を有する地位の確認、〈2〉会社法350条若しくは被告の安全配慮義務違反による不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償(選択的併合)の支払、〈3〉民法536条2項に基づき、令和3年4月分から本判決確定の日まで未払賃金等の支払を求める事案である。 (2)判決は、退職は無効であるとして、原告の〈1〉、〈2〉のうちの債務不履行に基づく損害賠償(賃金相当額及び慰謝料等)及び〈3〉の請求を認容した。 |
参照法条 | : | 労働基準法19条 民法415条 民法536条2項 |
体系項目 | : | 休職/休職の終了・満了 |
裁判年月日 | : | 令和4年2月17日 |
裁判所名 | : | 東京地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成30年(ワ)40029号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔休職/休職の終了・満了〕 (1)被告は、本件休業に基づき、本件就業規則の休職に係る規定の適用による退職を主張するが、本件休業の原因である本件疾病は、被告の業務に起因するものと認められることからすれば、本件退職取扱いは無効になるというべきである(労働基準法19条類推適用)。 ※原告は、労災認定を受け、休業補償給付を受給している。 (2)原告は、平成21年5月頃から、本件事務所で勤務し、同じ建物の6階に居住していた亡E(平成28年7月16日までの間、被告の代表者取締役)から、買物等の日常的な雑務を行うよう指示され、また、同人から、指示に従わなければ解雇する旨や、早朝からの出勤を求められる等の言動を繰り返し受けていたことが認められる。そして、亡Eは、不機嫌で攻撃的になることがあり、軽度とはいえ原告の身体を叩く等の暴行を行うこともあったところ、かかる行為は、原告が本件疾病を発症する平成26年5月頃まで約5年にわたり継続して行われていたものであり、かかる亡Eの言動は、原告に対して強い心理的負荷を与えるものであったと認められる。 原告は、A(被告の専務取締役、Eの死亡後の被告の代表取締役)に対して亡Eへの対応を繰り返し求めていたことが認められるが、亡Eの原告に対する言動が弱まっていたことは窺われず、被告において亡Eの言動を防止するための特段の措置、対応がとられていたとは認められない。かえって、Aは原告の対応を非難する旨の発言をしていたものであり、かかる被告の対応も、原告の心理的負荷を強めるものであったということができる。 さらに、原告は、平成24年4月16日に心療内科を受診し、「うつ病」「PTSD疑い」との診断を受けたが、その後も亡Eからの暴言等が継続し、平成26年5月頃、本件疾病を発症し、同年6月にはAから亡Eの言動について我慢するしかない旨を述べられ、本件休業に至ったことが認められ、かかる経緯に照らしても、本件疾病の発症が被告の業務に起因するものと認めることが相当である。 (3)Aは、原告に対し、亡Eの言動に対して聞き流すなどして我慢することを求めていたにすぎず、亡Eが本件事務所を訪れることを防止することや、原告と亡Eとの接触の機会を失くすことなど、原告の就業環境を改善するための措置を講じたものとは認められない。 (4)本件疾病の発症は被告の業務に起因するものと認められ、これに関し、被告には安全配慮義務違反が認められるところ、原告は本件疾病により休業し、平成27年1月分から令和3年3月分までの賃金の支払を受けることができなかったのであるから、被告の安全配慮義務違反により、同期間の休業損害が生じたものと認められる。 |