ID番号 | : | 09487 |
事件名 | : | 賃金請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | システムメンテナンス事件 |
争点 | : | 待機時間の労働時間性 |
事案概要 | : | (1)本件は、機械式駐車装置の販売、据付、保守並びにビル及び駐車場の管理等を目的とする株式会社である被控訴人(一審被告:株式会社システムメンテナンス)の従業員である控訴人(一審原告)が、夜間当番中の労働時間のうち、実作業に従事した時間(以下「実作業時間」という。)及び移動に要した時間(以下「移動時間」といい、実作業時間と併せて「実作業時間等」という。)に係る賃金の支払はあるが、待機時間(以下「不活動待機時間」という。)に係る賃金の支払がないなどと主張して、被控訴人に対し、平成28年7月21日から平成30年9月20日までの期間(以下「本件請求期間」という。)に係る時間外労働等に対する未払賃金1185万0044円等及び労働基準法(以下「労基法」という。)114条に基づく付加金等の支払を求めた事案である。 原審(札幌地裁)が、実作業時間等を除く不活動待機時間については、原告は、労働からの解放が保障されており、被告の指揮命令下に置かれていなかったものと評価するのが相当であるが、割増賃金の計算方法に誤りがあるとして未払賃金52万4315円等の支払を求める限度で控訴人の請求を認容したところ、控訴人は敗訴部分を不服として控訴した。 (2)控訴審判決は、原判決を一部変更し、不活動待機時間の一部(事務所に待機している時間)を労働時間と認定し、未払賃金111万1884円及び付加金22万円の支払の限度で認容した。 |
参照法条 | : | 労働基準法32条 |
体系項目 | : | 労働時間 (民事)/ 労働時間の概念/ (6) 手待時間・不活動時間 |
裁判年月日 | : | 令和4年2月25日 |
裁判所名 | : | 札幌高裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和2年(ネ)302号 |
裁判結果 | : | 原判決一部変更、控訴一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1267号36頁 |
審級関係 | : | 上告、上告受理申立て |
評釈論文 | : | 伊藤隆史・経営法曹216号54~77頁2023年6月 |
判決理由 | : | 〔労働時間 (民事)/ 労働時間の概念/ (6) 手待時間・不活動時間〕 (1)控訴人が事務所に待機している時間帯について 当番従業員は、ベル当番(平日夜間(午後5時30分から翌日午前8時30分まで)及び休日(午前8時30分から翌日午前8時30分まで)の当番)の際、事務所における待機中は、コンビニエンスストアに買い物に出かけたり、インターネットで動画を閲覧するなど自由に過ごすことができてはいたものの、当番従業員が2名とも事務所に待機していることで、顧客からの電話連絡が入ると、速やかに2名で現場に向かうことができるように事務所に待機していたこと、被控訴人代表者においても、控訴人を含む当番従業員が、所定の業務終了後も事務所に待機していることを認識し、これを容認していたと認めることができる。そうすると、控訴人が、事務所に待機していたと認められる時間帯については、労働からの解放が保障されているとはいえず、被控訴人の指揮命令下に置かれていたものとして、労働時間に当たるものと認めるのが相当である。 (2)控訴人が事務所に待機していない時間帯について> 当番従業員は、午後9時より後の時間帯については、事務所での待機を求められていたものではない。そして、被控訴人は、メンテナンス部門の従業員に対し、月10回程度の当番を割り当てた上、当番従業員に対し、当番従業員用の携帯電話を携行させ、社用車で帰宅させて、架電があった場合に応答し、必要な場合には現場対応するよう求め、札幌から遠方に出かけたり、飲酒したりすることを禁止していたが、それ以上に当番従業員の行動を制約してはおらず、当番従業員は、帰宅して食事、入浴、就寝等をしたり、買い物に出かけたりなど、私的な生活・活動を営むことが十分に可能であると認められる。 以上に加え、ベル当番の日(休日における日中を除く。)に1回以上入電のある確率は約33%(≒86日÷264日)、入電のあった日における平均入電回数は約1.36回(=117回÷86日)、入電があってから現場に到着し、作業を終了するまでに要する時間の合計は、平均すると、1時間13分(=30分+43分)程度であって、これらが多いとまではいえないことも併せると、控訴人が事務所に待機していない時間帯における不活動待機時間については、いわゆる呼出待機の状態であり、控訴人が労働契約上の役務の提供を義務付けられていたものではなく、労働からの解放が保障され、使用者の指揮命令下から離脱したものと評価することができるから、これが労働時間に当たると認めることはできない。 |