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ID番号 09488
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 ベルコ(労働契約申込みみなし)事件
争点 違法派遣による労働契約のみなし申込みの成立
事案概要 (1)被告ベルコは、互助会員募集業務等を株式会社B(以下「B社」という。)及び株式会社C(以下「C社」という。)に委託し、少なくとも形式的には、B社の下で原告A1、原告A2及び原告A3が就労し、C社の下で原告A4が、それぞれFAと呼ばれる営業職員として営業活動等に従事していた。なお、B社の代表取締役は被告B1であり、C社の代表取締役は亡C1(以下「亡C1」という。)であった。
 本件の主位的請求は、原告らが、〈1〉原告らは形式的にはB社又はC社と労働契約を締結しているが、B社及びC社の法人格は否認されるから、原告らは被告ベルコ、被告B1及び亡C1に対して未払割増賃金を請求することができ、又は、〈2〉被告ベルコは未払割増賃金債務の履行を引き受けており、また原告らと労働契約を締結していたのは被告B1個人及び亡C1個人であったと主張して、被告ベルコ、被告B1及び亡C1の承継人である被告C2らに対し、労働契約に基づき、それぞれ未払割増賃金750万8472円(被告C2らについてはその相続分相当額)等及び同額の付加金等の支払を求めるものである。
 本件の予備的請求1は、原告らが、〈1〉被告ベルコとの間で会社法14条1項の使用人(以下「商業使用人」という。)を介して労働契約を締結し、又は、〈2〉被告ベルコとの間で黙示の労働契約を締結したと主張して、被告ベルコに対し、労働契約に基づき、それぞれ未払割増賃金750万8472円等及び同額の付加金等の支払を求めるものである。
 本件の予備的請求2は、原告らが、被告ベルコは労働者派遣法の規定に反して労働者派遣の役務の提供を受け、もって原告らに損害を与えたなどと主張して、被告ベルコに対し、不法行為に基づき、それぞれ損害金750万8472円等の支払を求めるものである。
(2)判決は、予備的請求2について、被告ベルコの指示は、原告らに対し、労働者派遣法40条の6第1項の労働契約のみなし申込みの選択権の行使を不当に妨げる不法行為が成立するとして、慰謝料として、原告らそれぞれにつき、各自10万円ずつの損害賠償を認容し、その余の原告らの請求を棄却した。
参照法条 労働者派遣法40条の6第1項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣/派遣
裁判年月日 令和4年2月25日
裁判所名 札幌地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ワ)1325号
裁判結果 主位的請求棄却、予備的請求一部認容、一部棄却
出典 労働判例1266号6頁
労働法律旬報2018号61頁
審級関係 控訴
評釈論文 橋本陽子・ジュリスト1572号4~5頁2022年6月
浜村彰・労働法律旬報2018号57~58頁2022年10月25日
木村恵子・経営法曹216号32~45頁2023年6月
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣/派遣〕
(1)主位的請求-法人格否認の法理の適否
被告ベルコは、B社及びC社などの代理店に対して一定程度の指示・指導を行っていたとはいえ、個別具体的な業務遂行の方法についてまで指示をしていたものではなく、むしろ、代理店においてはその裁量の下にFAを採用し、自らの計算で給与の支払を行うなどしていたところである。
 そして、他に、被告ベルコとB社及びC社が資本関係にあるなど、被告ベルコがこれらを支配していたことをうかがわせる事情も見当たらない。
 したがって、被告ベルコがB社及びC社を支配していたということはできない。
 原告らの被告らに対する法人格否認の法理に基づく請求は、いずれも理由がない。
(2)主位的請求-履行引受け等の成否
被告ベルコによる振込業務の代行は、飽くまでも代理店の依頼があった場合に、これを行うことがあるというにすぎない。現に、B社においては、平成25年頃などには、FAの給与の振込業務をB社自らが行っていたところである。
 原告らが労働契約を締結したのはB社ないしC社というべきであって、他に原告らが被告B1個人ないし亡C1個人との間で労働契約を締結したものと認めるに足りる証拠は見当たらない。
(3)予備的請求1-商業使用人による労働契約の成否
 被告ベルコがB社及びC社を支配していたとまではいえない。そして、被告B1及び亡C1は、飽くまでもB社及びC社の代表者にすぎず、被告ベルコとの間で直接の労働契約その他の契約を締結しているようにもうかがわれない以上、被告B1及び亡C1が被告ベルコに従属し、これに使用されて労務を提供していたものとみるのは困難である。
 したがって、被告B1及び亡C1が被告ベルコの商業使用人に該当するということはできない。
(4)予備的請求1-黙示の労働契約の成否
B社及びC社においては、葬儀施行業務の際、被告ベルコから委託を受けた館長や葬儀施行代理店の従業員がFAに対して指揮命令・監督を行うことはあったものの、詳細な服務規律を定めたり、勤務時間や勤務場所を指示・把握したり、葬儀施行業務に不備があった場合にFAに対し直接不利益を課したりするといった指揮命令・監督にまでは及んでおらず、採用や互助会契約に関する業務上の指示、葬儀施行業務に従事すること自体に関する指揮命令、FAの労務管理や評価、人事権の行使、給与の額の決定や支払は、いずれも労働契約の直接の当事者であるB社及びC社が行っていたものであって、原告らと被告ベルコとの間で黙示の労働契約が成立したものとするのは困難である。
(5)予備的請求2-みなし申込みの成否
被告ベルコは、葬儀施行業務につき、B社及びC社から労働者派遣の役務の提供を受けていたものであるところ、B社及びC社が労働者派遣法5条1項所定の厚生労働大臣の許可を受けていたことを認めるに足りる証拠はない(被告らもそのような主張はしていない。)。
 したがって、被告ベルコは、同法24条の2の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けたものであるから、同法40条の6第1項2号の行為を行ったものとして、同項の規定に基づき、原告らに対し、労働契約の申込みをしたものとみなされる。
 なお、同条の規定は、平成24年法律第27号による改正の際に新設されたものであり、平成27年10月1日から施行されているところ、その経過措置として、「施行日以後に締結される労働者派遣契約に基づき行われる労働者派遣について適用する。」との定めがある。本件においてみるに、〈1〉B社と被告ベルコとの間においては、平成24年12月頃に労働者派遣契約(葬儀施行に係る業務委託契約)が締結され、その後、1年ごとに同契約が更新されていたのであるから、平成27年12月頃の更新以降の葬儀施行業務への従事につき、みなし申込みが成立し、〈2〉C社と被告ベルコとの間においては、平成26年6月頃に労働者派遣契約(葬儀施行に係る業務委託契約)が締結され、その後、1年ごとに同契約が更新されていたのであるから、平成28年6月頃の更新以降の葬儀施行業務への従事につき、みなし申込みが成立する。
(6)予備的請求2-不法行為に基づく損害賠償請求の可否
被告ベルコは、代理店に対し、FAに「確認書」と題する書面を1年に1回程度の頻度で作成させるよう指示していたものである。そして、その「確認書」には、確認事項として、〈1〉FAは代理店の従業員として雇用されており、被告ベルコとは何らの雇用関係も存在しないこと、〈2〉FAの給与は被告ベルコから振り込まれるが、これは本来は代理店主から支給されるべきものであって、被告ベルコは振込業務を代行しているにすぎないこと、〈3〉給与に関する相談・交渉は代理店主との間で行うものであり、被告ベルコとの間で行うものではないことが記載されていたところである。しかも、現に、原告らを含むFAは、上記の指示を受けて確認書を作成して、代理店主に提出していた。
 被告ベルコのこのような指示は、原告らに対し、労働者派遣法40条の6第1項の労働契約のみなし申込みなどされておらず、自身が被告ベルコとの間で労働契約や労働条件について主張する立場にないとの認識を抱かせ、もって上記の選択権の行使を不当に妨げるものといわざるを得ない。
 したがって、被告ベルコの上記行為については、不法行為が成立する。
(7)次に、これによる原告らの損害について検討するに、上記不法行為によって侵害されるのは、飽くまでも当該役務提供を受けた者との間で労働契約を締結するかどうかについての選択権であって、当該選択権を行使して承諾した場合に生じることとなる労働契約上の地位に伴う賃金相当額についてまで、当然に侵害されるものということはできない。そうすると、上記不法行為を理由として未払割増賃金相当額の支払を求める原告らの主張は、理由がないものといわざるを得ない。
 他方、原告らは、上記不法行為による損害として、精神的苦痛による慰謝料をも主張するところ、原告らは、選択権の行使を妨害されたことにより、将来の承諾によって被告ベルコとの間で労働契約が成立し得るという期待が害されたというべきであって、これにより精神的苦痛を被ったものと認めるのが相当である。
 そして、上記の不法行為の態様、これに伴う結果その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、その精神的苦痛を慰謝するための費用としては、原告らそれぞれにつき、各自10万円ずつをもって相当と認める。