ID番号 | : | 09489 |
事件名 | : | 賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | マーベラス事件 |
争点 | : | 降格に伴う賃金減額幅決定権限の濫用 |
事案概要 | : | (1)本件は、ソフトウェア及びコンテンツの企画、開発、制作、販売、配信及び輸出入等の事業を営む被告(株式会社マーベラス)との間で労働契約を締結し、被告において勤務していた原告が、被告に対し、本件人事考課による4年連続(平成27年12月1日、平成28年6月1日、平成29年6月1日、平成30年6月1日)にわたる本件賃金減給が無効で不法行為にも当たると主張し、〈1〉平成31年2月分までについては、主位的に、不法行為による損害賠償請求として損害合計390万5955円(差額賃金、慰謝料、弁護士費用)等(請求1(1))の、予備的に、雇用契約による賃金支払請求権に基づき平成28年10月分から平成31年2月分までの差額賃金合計203万2375円等(請求1(2))の支払を求めるとともに、〈2〉平成31年3月分以降については、雇用契約による賃金支払請求権に基づき平成31年3月分から本判決確定の日まで毎月25日限り賃金30万2390円等(請求2)の支払を求める事案である。 (2)判決は、被告に減額幅決定権限の濫用があったとして、差額賃金の支払い請求の一部を認容し、口頭弁論終結日の後である令和3年12月25日以降本判決確定の日までの月額賃金の支払を求める部分に関する訴えは訴えの利益がないから却下し、平成31年2月分までの主位的請求は理由がないから棄却した。 |
参照法条 | : | 労働基準法24条 労働基準法91条 |
体系項目 | : | 賃金 (民事)/ 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額 |
裁判年月日 | : | 令和4年2月28日 |
裁判所名 | : | 東京地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成31年(ワ)622号 |
裁判結果 | : | 一部却下、一部棄却、一部認容 |
出典 | : | 労働判例1267号5頁 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 確定 |
評釈論文 | : | 本久洋一・労働法律旬報2019号22~23頁2022年11月10日 |
判決理由 | : | 〔賃金 (民事)/ 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕 (1)被告には賃金(基本給及びみなし時間外手当。LD手当月額5万5000円は定額)を減額する根拠規定があり、被告が本件評価にあたり考課裁量を逸脱又は濫用したと認められないから、本件評価、すなわち、平成27年度上期行動評価、平成27年度通期行動評価、平成28年度通期行動評価、平成29年度通期行動評価のいずれについても、本件降給基準を充足しており、被告は、本件報酬テーブルにおける原告のグレードを下げて降給(賃金減額)を検討して実施する権限があったと認められる。そして、被告は、従業員に周知されていない内部の運用として、上記降給に当たり本件報酬テーブルの「月次報酬」の減額が年10%を超えないようにしていたものであり、本件賃金減額の割合も、平成27年12月1日の変更は約8.4857%、平成28年6月1日の変更は約8.4884%、平成29年6月1日の変更は約8.4860%、平成30年6月1日の変更は約8.4833%といずれも10%以内に止められている。 (2)もっとも、被告の就業規則・給与規程には具体的なグレード毎の賃金額等の定めがなく、従業員に周知された本件ガイドブックの本件報酬テーブルにおいても、基本給(LD手当導入後は基本給及びLD手当)とみなし時間外手当を合計した「月次報酬」について84ないし242(平成30年6月までに改定された後)のグレードが設定されているものの、グレード毎の定義(役職・職務内容・責任等)は規定されていない。そうすると、被告に原告の賃金グレードを下げて降給を検討して実施する権限があり、本件降給基準を充足した場合に賃金が減額され得ることが労働契約上予定されていたと認められるとしても、被告の権限行使による減額内容等によっては、なお減額幅決定権限の濫用により賃金減額の効力が否定されると解すべきである。 (3)本件賃金減額は、通常の労働に対する対価としての賃金を継続的に一定額減給するものといえる上、本件降給基準を充足して賃金グレードが下げられたからといって、それに伴う労働契約上の職責や職務内容の変更を伴わなかったと認められる。そして、上記10%を超えない運用については、労働基準法91条が減給の制裁について「総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」と規定していることと対比し、一定の合理性を有すると評価できるものの、繰り返し賃金グレードを下げることとした場合、労働者の不利益が大きくなっていくことは明らかであるが、被告は、繰り返し賃金グレードを下げることについて、労働契約においても内部の運用においても何らの手当をしていないから、労働者の不利益の大きさと対比して連続減額の客観性及び合理性の乏しさは否定し難い。さらに、本件賃金減額は、連続する4年度にわたり毎年度繰り返し実施されていて、その結果、月額賃金(「月次報酬」)が30万2390円(当初賃金)から21万2090円に約29.8621%も減額されていて、上記減額結果の月額賃金(うちLD手当及び基本給の合計額は15万7427円)は被告の認識する東京都の最低賃金額を下回らない最低水準であったと認められ、原告の不利益は非常に大きいものがあったといえる。 これらの事情を総合考慮すると、本件賃金減額については、平成27年12月1日の変更前の月額賃金(当初賃金)30万2390円を10%減額した27万2151円を超える減額部分について、減額幅決定権限の濫用に当たり無効というべきである。 |