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ID番号 09491
事件名 未払賃金等請求控訴事件
いわゆる事件名 巴機械サービス事件
争点 男女同一賃金
事案概要 (1)本件は、遠心分離機のメンテナンスや設置等を業とする一審被告(巴機械サービス株式会社)に入社した女性である一審原告X1、X2の両名が、一審被告に対し、自らが一般職とされ、総合職である男性従業員との間に賃金格差が生じていることについて、一般職と総合職の区別は性別のみであるから、この取扱いを定めた一審被告給与規定及びこれに基づく賃金制度が労働基準法4条に違反し、また、一審被告が採用段階において、一審原告両名が女性であることのみを理由に一般職に振り分け、総合職への転換を事実上不可能にしていることが、いずれも雇用機会均等法に違反すると主張して、〈1〉一審原告両名が総合職の地位にあることの確認、〈2〉一審原告両名が総合職であれば支払われたはずの賃金と実際に支払われた賃金との差額について、主位的に労働契約に基づく未払賃金の支払、予備的に不法行為に基づく損害賠償請求の支払、〈3〉一審原告両名は違法な男女差別により経済的、身分的な不利益を受け、精神的苦痛を被ったと主張し、不法行為に基づく損害賠償等の各支払を求める事案である。
(2)原判決(2021年3月23日横浜地判)は、一審被告は、本件コース別人事制度の運用において、一審原告両名に対し、総合職への転換の機会を提供せず、結果として、その職種変更の機会を奪ったことが、雇用機会均等法6条3号及び同法1条の趣旨に違反し、そのことについて少なくとも過失があり、不法行為に該当すると認められるとして、一審原告両名に対し、慰謝料各100万円等を認容した。そのため、一審原告、一審被告双方が敗訴部分を不服として本件控訴の提起をするとともに、当審において、一審被告に対する慰謝料請求(上記(1)〈3〉)について、その請求額元金を500万円に拡張請求した。
(3)控訴審判決は、原判決は相当であるとして、一審原告らの(1)〈1〉〈2〉の請求を棄却し、(1)〈3〉の慰謝料請求については、それぞれ100万円及び遅延損害金の支払を求める限度で認容したが、当審での拡張請求部分については棄却した。
参照法条 雇用機会均等法1条
雇用機会均等法6条3項
労働基準法4条
体系項目 労基法の基本原則 (民事)/ 7 男女同一賃金、同一労働同一賃金
裁判年月日 令和4年3月9日
裁判所名 東京高裁
裁判形式 判決
事件番号 令和3年(ネ)1902号
裁判結果 控訴棄却、拡張請求棄却
出典 労働判例1275号92頁
審級関係 確定
評釈論文 山岡遥平・季刊労働者の権利349号61~66頁2023年1月
判決理由 〔労基法の基本原則 (民事)/ 7 男女同一賃金、同一労働同一賃金〕
(1)一審原告らは、一審原告らと男性総合職の職務内容や困難度には同質性があったにもかかわらず、一審原告らの職能給額は、勤続期間が近似する同年齢の男性総合職の職能給平均額と比較して、相当額の格差があったのであるから、その格差が生じたことについて合理的な理由が認められない限り、その格差は性の違いによって生じたものと推認される旨主張する。
 しかしながら、一審被告において、「総合職」とは、「基幹的業務を行う職種」(給与規定11条1項)であり、非定型的業務や、定型的・補助的な業務を行う者への指示業務を行い、同指示等に伴う業務責任を負う従業員及びその育成過程にある従業員の職種を指すものであるのに対し、「一般職」は、「補助的業務を行う職種」(給与規定11条2項)であり、基幹業務を行う者の指示又は定められた規則、規定手続、慣行等に基づいて定型的・補助的な業務を遂行する従業員の職種であって、その職務内容や責任等を異にするものである。
 そして、このような職制の下、一審原告X1は、一審被告の総務課に所属する一般職(経理担当)として、小口現金の出納、小切手・手形等の出納、経理システムへの入力、伝票の発行、領収証の保管・発行、固定資産台帳の作成、勘定補助簿の整理、取引先の信用調査資料の収集、整理・保管等の定型的・補助的事務を行い、一審原告X2は、一審被告の生産管理課の一般職として、外注修理写真の管理、一審被告システム(MCフレーム)への受注登録、Jobファイルの作成、巴工業システム(MCフレーム)への先行部品入力、保守BM、図面準備等の定型的・補助的事務を行ってきたのであって、これらの事務が一審被告において「基幹的業務」に該当するとは認められず、一審原告らの行う事務と総合職の行うそれとの間に同質性があったとは認められないから、一審原告らの上記主張は、その前提を欠くものというべきである。
(2)一審被告においては、一般職から総合職への職種転換制度が整備されておらず、一審原告らの問題提起にもかかわらず、男性が総合職、女性が一般職という現状を容認し、固定化してきた点で、職種の変更について性別を理由とした差別的取扱いを禁ずる雇用機会均等法6条3項に違反し、又は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図ることを目的とした同法1条の趣旨に鑑み、違法な男女差別に当たるということはできるものの、それ以外に、上記の各事情から、本件コース別人事制度の下、男性を総合職、女性を一般職とする男女差別が行われてきたと認めることはできないのであって、これに反する一審原告らの主張は採用することができない。