ID番号 | : | 09492 |
事件名 | : | 損害賠償請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | リクルートスタッフィング事件(控訴審) |
争点 | : | 有期派遣労働者と無期雇用労働者の通勤手当の相違 |
事案概要 | : | (1)控訴人(一審原告)は、人材派遣事業等を業とする被控訴人(株式会社リクルートスタッフィング:一審被告)との間で、派遣等による就労の都度、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結し、派遣先事業所等において業務に従事しており、通勤交通費の支給はないが高額の時給単価の派遣業務を選ぶことも、多少時給単価が低めでも通勤交通費の支給がある派遣業務を選ぶことも可能であった。 控訴人は、被控訴人と期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結している従業員(以下「無期労働契約社員」)と控訴人との間で、通勤手当の支給の有無について労働条件の相違が存在し、同相違は労働契約法20条に反する違法なものであり、同相違に基づく通勤手当の不支給は不法行為に当たると主張して、被控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、平成26年9月1日から平成29年6月30日までの間の就労に関する上記相違に係る通勤手当相当額合計59万7320円等の支払を求める事案である。 (2)原判決(2021年2月25日大阪地裁判決)は、本件相違は労働契約法20条の「不合理と認められるもの」と評価することはできないとして、控訴人の請求を棄却した。このため、控訴人がこれを不服として控訴をしたものである。 (3)控訴審判決も、控訴人の請求を棄却した。 |
参照法条 | : | 労働契約法第20条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事)/均等待遇/(14)短時間・有期雇用労働者と均等待遇 |
裁判年月日 | : | 令和4年3月15日 |
裁判所名 | : | 大阪高裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和3年(ネ)725号 |
裁判結果 | : | 控訴棄却 |
出典 | : | 労働判例1271号54頁 労働経済判例速報2483号29頁 |
審級関係 | : | 上告受理申立て |
評釈論文 | : | 河村学・民主法律時報583号2~3頁2022年4月 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則(民事)/均等待遇/(14)短時間・有期雇用労働者と均等待遇〕 (1)本件通勤手当は通勤交通費を補填する趣旨で支給されるもので、本件相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるが、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないから、控訴人の請求は理由がないと判断する。 (2)有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。なお、ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合もあり得るところ、そのような事情も、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり考慮されることになるものと解される。(以上、最高裁判所平成30年6月1日第2小法廷判決・民集72巻2号202頁参照) (3)派遣スタッフ等は、その雇用期間中に就業場所が変更される可能性が少なく、その期間中の自らの就業に伴う通勤交通費を予測することも容易であり、通勤交通費の支出を考慮した上で、JOB(登録者の希望条件に沿った就業条件等の派遣業務)等を選択することが可能であることが認められる。 一方、被控訴人においては、基幹となる人材派遣事業を行う上でこれを担う派遣スタッフ等の確保が重要な経営課題であるところ、平成元年頃に「新時給制度」を導入して以来、派遣スタッフ等に対して別途通勤手当を支給しないことを前提としつつ、別途通勤手当を支給する競合他社との派遣スタッフ獲得競争も意識して、通勤交通費の負担を勘案して時給を比較的高めに決定してきたことが認められる。これは、就業場所の近隣に居住するなど通勤交通費が低額な派遣スタッフ等については、通勤交通費を控除した実質的な収入がより高くなる労働条件を定めるものということができる。 控訴人が選択可能であったJOBには、通勤手当が時給とは別に支給されるものと支給されないものがあり、控訴人はその中から総合的に判断して自らに有利と考えて、通勤手当が支給されないJOBを選択したはずである。 (4)以上によれば、控訴人の請求は理由がなく、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴は理由がない。 |