全 情 報

ID番号 09493
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日本生命保険事件
争点 就業規則で定めた成績に達成しないことによる退職扱いの有効性
事案概要 (1)本件は、被告(日本生命保険相互会社)と労働契約を締結し、保険営業の業務に従事していた原告が、被告に対し、主位的に、「営業職員の資格選考において、本人の活動成果等が、一般拠点営業職員規程その他の規程に定める基準(編注:職選基準)に達しない場合には、選考月の前月末をもって、営業職員としての資格を失い、会社と営業職員の締結する雇用契約が終了する。」とする営業職員就業規則に基づき、原告が当該職選基準を達成しなかったとして、同月末日をもって労働契約が終了する旨を通知した平成29年12月31日付けでされた労働契約の終了について解雇権濫用により無効であると主張し、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成30年1月分以降の賃金等の支払を求め、また、被告の従業員からパワー・ハラスメントを受けた旨主張し、不法行為又は債務不履行(以下、両者を併せて「不法行為等」という。)による損害賠償金等の支払を求め、予備的に、上記解雇が有効であるとしても、被告の従業員から違法な勧誘行為を受けて前勤務先を退職して被告に入社させられたことが不法行為に当たる旨主張し、不法行為による損害賠償金等の支払を求める事案である。
(2)判決は、原告の請求を棄却した。
参照法条 労働契約法16条
体系項目 解雇 (民事) /解雇事由/ (2) 勤務成績不良・勤務態度
裁判年月日 令和4年3月17日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和2年(ワ)21274号
裁判結果 棄却
出典 D1-Law.com判例体系
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇 (民事) /解雇事由/ (2) 勤務成績不良・勤務態度〕
(1)被告は、本件退職取扱いは、本件労働契約において定められた契約条件が成就したことにより終了したものであり、使用者が一方的に行う解雇とは異なり、解雇権濫用法理は適用されない旨主張する。しかしながら、本件退職取扱いは、原告の営業成績が不良であることを理由として、原告の意思に反して退職の効果を生じさせるものであり、労働者の能力不足により解雇がされる場合と類似することから、解雇権濫用法理が適用されると解することが相当である。
(2)原告は、遅くとも本件職選基準の対象期間においては、本件職選基準の内容、職選基準が未達成の場合には本件労働契約が終了するとされていたこと、及び、自らの職選基準の達成状況について認識していたものと認められる。
 被告における職選基準は、営業職員就業規則に規定され、原則として全ての営業職員に対して適用されるものであるところ、かかる基準が営業職員に対して特に高い能力を要求するものと認めるに足りる証拠はない。また、被告が、原告に対して同基準を恣意的に適用したというべき事情も窺われない。そうすると、原告が被告に入社後2度にわたり職選基準を達成していることを考慮しても、原告が本件職選基準を達成しなかったことにより、原告の職務能力が、被告において営業職員に対して求められる程度の基準に達していなかったと認めることが相当である。
 本件退職取扱いは、客観的合理的理由及び社会的相当性を欠くものとは認められない。
したがって、本件退職取扱いは有効であり、本件労働契約は、平成29年12月31日付けで終了したと認められる。
(3)E(育成部のリーダーとして営業職員のトレーナーをしていた者)及びB(営業部長)の行為が、業務上必要かつ相当な範囲を超え、労働者たる原告の就業環境を害するものとして不法行為等を構成するということはできない。
(4)F(育成部のリーダーとして営業職員のトレーナーをしていた者)において、原告を勧誘するに当たり、原告が主張するような被告における新人のサポート体制が会社案内に記載のあるとおりとなっていないことや、ノルマの達成が雇用契約の存続条件であることを説明すべき注意義務を負っていたものとは認められず、また、Fが殊更虚偽の事実を告げて勧誘を行ったと認めることはできない。したがって、原告の主張は、採用することができない。