ID番号 | : | 09494 |
事件名 | : | 賃金等支払請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ビジネスパートナーほか事件 |
争点 | : | 降格、懲戒処分の無効と慰謝料請求 |
事案概要 | : | (1)本件は、被告であるリース事業・貸金事業等の金融業を行う株式会社ビジネスパートナー(以下「被告会社」という。)と労働契約を締結している原告(被告会社に入社すると同時に、被告会社の100%子会社のライフティ株式会社に出向し、部長と取締役を兼務)が、〈1〉ライフティの営業部全体の統括を命ずる業務命令を正当な理由なく拒否したり、〈2〉D課長の引継期間について3か月以上要するという合理性に欠ける主張に固執したりしたことによって、管理職として不適格であることが明らかになったとして、被告会社から降格及びこれに伴う賃金減額の措置を受け、さらにその後、懲戒降級処分を受けたところ、上記降格及びこれに伴う賃金減額の措置並びに懲戒降級処分はいずれも無効であると主張して、被告会社に対し、労働契約に基づき、被告会社の部長職として賃金減額前の月額47万7000円の支払を受ける地位にあることの確認と、差額賃金等の支払を求めるとともに、被告会社の代表取締役である被告Yに対しては、違法な退職勧奨や違法な降格・降給、懲戒降級処分、不当な賞与差額請求やライフティによる不当提訴などの違法行為をし、原告にストレス障害を発症させて休業に追い込んだと主張して、不法行為(被告会社との共同不法行為)に基づき、被告会社に対しては、被告Yが被告会社の代表取締役として上記違法行為を行い、原告に上記損害を与えたと主張して、会社法350条に基づき、連帯(不真正連帯)して、慰謝料500万円等の支払を求める事案である。 (2)判決は、本件降格及び本件降給並びに本件懲戒処分は、いずれも違法、無効であるから、原告の被告会社に対する労働契約に基づく地位確認請求は理由があり、未払賃金請求は判決の限度で理由があり、また、原告の被告らに対する不法行為及び会社法350条に基づく損害賠償請求は、被告らに対し、連帯(不真正連帯して)して100万円等の支払を求める限度で理由があるとした。 |
参照法条 | : | 民法709条 会社法350条 |
体系項目 | : | 労働契約 (民事)/ 人事権/ (1) 降格〕〔懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用 |
裁判年月日 | : | 令和4年3月22日 |
裁判所名 | : | 東京地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和1年(ワ)15565号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1269号47頁 |
審級関係 | : | 確定 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約 (民事)/ 人事権/ (1) 降格〕〔懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用〕 (1)被告らが本件降格の理由としで挙げる事案概要(1)の〈1〉及び〈2〉の事由は、いずれも原告の管理職としての適格性を疑わせるような事情には当たらず、原告を管理職から一般職に降格させる業務上の必要性や理由があったことはうかがわれない。 むしろ、認定事実の経緯に照らすと、本件降格及び本件降給は、原告がライフティの管理体制の変更案や退職予定の従業員の引継期間について、管理職の立場から適切と考える意見を述べたところ、それが被告Yの意向に反するものであったために、被告Yがこれに立腹し、意に沿わない言動をとった者に不利益な処分を課すという違法・不当な目的で行ったものであることが推認されるというべきである。 したがって、本件降格及び本件降給は、いずれも人事権を濫用して行われたものであり、違法、無効である。 (2)原告が平成28年4月以降ライフティに貸金償却除外基準を導入して、これに当てはまる債権を償却対象から除外する運用を行うことや、その後、信販償却除外基準や個別償却基準を導入した運用を行うことについて、被告らは、これらの運用は、原告が独断で、決済権者であるライフティの代表取締役C社長の承認を得ずに行ったものであり、これは、職務上の権限外行為として、本件就業規則第118条18号所定の懲戒事由に該当すると主張する。 しかし、これらの運用については、決済権者であるC社長の承認があったことが認められるから、原告が指示してライフティにおいて上記運用をしたことが本件就業規則第118条18号所定の懲戒事由(職務上の権限外行為)に該当するとは認められない。 (3)本件降格及び本件降給は、違法・不当な目的で人事権を濫用して行われたものであるから、違法である。また、本件懲戒処分も、懲戒事由が存しないにもかかわらず行われたものであるから、違法である。本件降格及び本件降給並びに本件懲戒処分は、ライフティの100%親会社である被告会社の代表取締役である被告Yが、C社長に指示して行わせたものであることが明らかであるから、被告Yの原告に対する不法行為を構成すると認められる。 本件降格及び本件降給は、被告Yがその意に反する言動をとった原告に立腹して行ったものであり、このような理不尽な動機・理由による一方的な措置によって、原告は、管理職から一般職に降格させられ、賃金を月額8万5000円も減額されるという大きな不利益を被ったことや、原告が被告Yの意に反する意見を述べた当日の深夜、被告Yから電話があり、口答えをしたなどと責められ、その数日後には本件降格の方針が告げられ、原告が降格には正当な理由がない旨を反論しても取り合ってもらえず、かえって退職勧奨を受けたことなどの本件降格及び本件降給に至る経緯、原告がこのような理不尽な扱いを受けた結果、不眠、不安や体重減少などを訴えてクリニックを受診し、急性ストレス反応や適応障害と診断されるほど体調を崩したこと、このような中で、違法な本件懲戒処分を受けたこと、原告が上記のように体調を崩した結果、有給休暇の取得や休職によって、6か月以上もの長期にわたって被告会社を休んだことに照らすと、原告が、違法な本件降格及び本件降給並びに本件懲戒処分によって被った精神的苦痛の程度は、相当に大きいものであったことが認められる。 以上のような事情に照らすと、原告が上記の不法行為によって被った精神的苦痛を慰謝するには、少なくとも100万円を下ることはないと認められる。 |