ID番号 | : | 09495 |
事件名 | : | 未払賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | イノベークス事件 |
争点 | : | 管理監督者性の有無と事業場外みなし労働時間制の適用の可否 |
事案概要 | : | (1)本訴は、ITシステム開発等を業とする株式会社(以下「被告」という。)においてITシステム開発業務等に従事してきた従業員であった原告が、労基法41条2号の管理監督者であること、事業場外みなし労働時間の対象者であることなどを理由として割増賃金を支払われなかったことに対し、被告に対し〈1〉労働契約に基づき、未払割増賃金等の支払、〈2〉労働基準法(以下「労基法」という。)114条に基づく付加金請求等の支払を、各求めた事案である。 反訴は、被告が、原告に対し、(1)不当利得に基づき、欠勤控除分の過払賃金の返還、(2)不法行為に基づき、不当な賃上げ要求により被った損害に係る損害賠償金の支払、及び、(3)不当利得に基づき、過払の残業代の返還等の支払を求めた事案である。 (2)判決は、本訴の原告の〈1〉〈2〉の請求を認容し、反訴の被告の請求を理由がないなどとして棄却した。 |
参照法条 | : | |
体系項目 | : | 労働時間 (民事) /事業場外労働 労働時間 (民事) / 12 労働時間・休憩・休日の適用除外/ (2) 管理監督者 |
裁判年月日 | : | 令和4年3月23日 |
裁判所名 | : | 東京地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和3年(ワ)17256号 |
裁判結果 | : | 本訴一部認容、一部棄却、反訴棄却 |
出典 | : | D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働時間 (民事) / 12 労働時間・休憩・休日の適用除外/ (2) 管理監督者〕 (1)原告は、主に客先において常駐でシステム開発及び運用業務に従事し、その間、プロジェクトリーダー等として他社の従業員らに業務のやり方等を指導したり、原告の従事するプロジェクトとの関係でメンバーの採用に関与したりすることはあったが、被告従業員の部下はおらず、被告従業員の労務管理等をすることもなかったというのであるから、経営者と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されていたとはいい難い。また、原告の労働時間は、基本的に現場の勤務時間に従うこととされ、原告が毎月被告に提出していた作業実績報告書の記載によれば、原告は基本的に定時である午前9時から午後6時までは勤務していたことが認められるから、原告が勤務時間について裁量を与えられていたことはうかがわれない。さらに、原告の給与額は、当初は月額32万5000円(諸手当込み)、その後も最大で月額40万円(同上)であったというのであるから、厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないといえるほど待遇面で優遇措置を講じられていたと評価することはできない。 以上を総合的に考慮すれば、原告は、実質的に法の趣旨が充足されるような立場にあるとは認められないから、労基法41条2号所定の管理監督者に該当するということはできない。 〔労働時間 (民事) /事業場外労働〕 (2)原告は、客先に常駐でシステム開発及び運用業務に従事していたところ、上記業務は、その時々の状況に応じた対応が必要となることは推察されるものの、勤務場所は当該客先、勤務時間は現場の勤務時間に従うこととされていて明確であり、業務内容も一定の定型性を有していることから、被告において事前にある程度その勤務状況や業務内容を把握することができたものということができる。また、原告は、業務時間中は常に携帯電話を所持し、被告と連絡のつく状態でいるよう指示され、被告代表者から連絡があった場合にはすぐに対応し、被告代表者の指示に従い、現場で面談を行う、別の現場に移動するなどしていたというのであるから、被告としては、勤務時間中に必要に応じて原告に連絡を取り、その勤務状況等を具体的に把握することができたということができる。さらに、原告は、被告に対し、月ごとに、毎日の始業時刻、終業時刻及び実働時間を記録した作業実績報告書を提出していたというのであるから、被告としては、事後に原告の勤務状況を具体的に把握することができたというべきである。 以上の事情を総合すれば、本件では、被告において原告の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったということはできず、労基法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるということはできない。 |