ID番号 | : | 09496 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 九電ハイテック事件 |
争点 | : | 労災事故における労働者の過失相殺 |
事案概要 | : | (1)本件は、被告である電力設備の保守及び補修等を目的とする株式会社(株式会社九電ハイテック)の従業員として平成29年4月から被告の従業員として稼働を開始し、送電線の保守・管理・修繕等の業務に従事していた亡B(以下「B」という。)が、平成30年11月26日に、送電線鉄塔におけるアース付け外し作業従事中に鉄塔から墜落して死亡した事故(以下「本件事故」という。)について、Bの相続人である原告が、被告にはBに対する安全配慮義務違反があると主張して、被告に対し、損害賠償金等の支払を求める事案である。 (2)判決は、被告の安全配慮義務違反を認め、亡Bの過失割合は40パーセントとして、被告に損害賠償を命じた。 |
参照法条 | : | 民法415条 |
体系項目 | : | 労働契約 (民事)/ 労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 令和4年3月24日 |
裁判所名 | : | 福岡地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和2年(ワ)530号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約 (民事)/ 労働契約上の権利義務/ (16) 安全配慮 (保護) 義務・使用者の責任〕 (1)Bが本件事故の際に無胴綱状態で本件鉄塔から墜落したことに照らせば、Bは、作業者の上下位置の入替え及び応急措置の完了後、ハイレール安全器(長さ45cmの金属製部材で、上端にレールロック装置、下端のロープ両端に安全帯装着用フックを備えたもの。)を装着した後に鉄塔脚に付けた胴綱を外すべきであったにもかかわらず、ハイレール安全器を装着しないまま胴綱を外して無胴綱状態になったことが推認され、これが転落の直接的な原因となったといわざるを得ない。 (2)本件事故当時、Bは被告に入社してから約1年7か月(福岡支社送電グループ配属時からは約1年3か月)と経験の浅い従業員であって、被告主張に係る座学及び実技の研修を経てもなお墜落防止に関する知識経験が不十分な部分があったものと解される。 加えて、作業者の上下入替えの動作は、作業者が数年に1回程度の頻度で経験する比較的まれなものであったところ、被告は上下入替え動作に関するマニュアル等を策定しておらず、また、Bにおいて本件事故以前に当該動作を経験していたことをうかがわせる事情はない。 そうすると、本件でBが行った上下入替え動作は、同人にとって初めての経験であり、かつ、降塔中に本件収納袋に破損が見つかるという危険かつ特異な状況により強い心理的な負荷を受けた中で行われたものと評価することができ、手順の過誤等による墜落のリスクは一層高まっていたと推認される。 このような事情に照らせば、Bの研修を組織的に実施し、その習熟度を把握していた被告としては、本件事故現場においても、安全ロープ使用に関する一般的な注意を行うにとどまらず、必要に応じて上下入替え動作に係る実技研修を実施する等して適切な使用方法を指導するとともに、Bの具体的なロープ使用状況を監督する義務があったというべきである。 また、本件において、Bは本件収納袋の破損が確認された後、Cと話し合いながら入替え動作及び応急措置に臨んだものの、その位置は地上約30mの高所であり、両名はトランシーバー等を携帯していなかったことからすると、地上で待機していた経験豊富な従業員であるE(専任監視者)やF(塔上監視者)が両名に対し指導をすることは困難であったと認められる。 以上によれば、胴綱を外す前にハイレール安全器を装着するという動作自体は、基本的な事項ではあるものの、Bの経験が浅いこと、上下入替えの動作自体は頻繁に行われるものではなく、具体的な手順等も定められていなかったことを考慮すると、被告には、現場の状況に応じた具体的な指導及び監督を可能ならしめる設備体制を整えないまま、Bを高所作業に従事させたものとして、同人に対する安全配慮義務違反が認められる。 (3)上下入替え動作は、それ自体基本的な動作により構成されるものであり、Bにおいては、Cとの間でより丁寧な意思疎通を図ること等を通じて、適切に安全ロープを使用することが十分に期待できたといえる。Bとしても、無胴綱になることの危険性を認識しつつ、漫然と胴綱からハイレール安全器への切替えを行った(ハイレール安全器を装着しないまま胴綱を外した)ことはあまりに不注意であったと評価せざるを得ない。 被告とBはそれぞれ相当の安全配慮義務ないし注意義務を負っていたと解されるところ、従業員への的確な指導を担保する設備体制の整備はまさに被告において検討すべき事柄であって、Bが本件事故現場で直ちに実効性のある措置を講ずることは困難であったこと、入職して日が浅いBの不注意は被告の指導不足に起因する側面があることに照らせば、本件事故におけるBの過失割合は40パーセントとするのが相当である。 |