全 情 報

ID番号 09497
事件名 未払賃金等請求事件
いわゆる事件名 セルトリオン・ヘルスケア・ジャパン事件
争点 事業場外みなし労働時間の適用の有無
事案概要 (1)本件は、令和2年3月31日まで医薬品の製造及び販売等を業とする株式会社である被告に雇用され、医療情報担当者(以下「MR」という。)として就労していた原告が、被告に対し、〈1〉労働契約に基づく賃金請求として平成30年3月から令和2年2月までの就労に係る割増賃金1368万7663円等の支払、〈2〉労働契約に基づく賃金請求として未払賞与242万4064円等の支払、〈3〉労働基準法(以下「労基法」という。)114条に基づく付加金等の支払、〈4〉原告は被告による違法な行為により精神的苦痛を被ったなどとして、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料150万円等の支払を求めた事案である。
 なお、被告のMRは、医療機関を訪問して、被告の扱う医療用医薬品を中心とした医薬情報を医療関係者に提供し、また、使用された医薬品の有効性や安全性に関する情報を医療の現場から収集して報告することを主な業務としており、営業先である医療機関を訪問して業務を行う外回りの業務であったことから、基本的な勤務形態としては、自宅から直接営業先を訪問し、その後直接帰宅するというものであり、被告はMRについては、労働時間を算定することができないことを前提に、一律、事業場外労働のみなし制の適用を受けるものとして扱っていた。
(2)判決は、原告に対する事業場外労働のみなし労働時間の適用を認め、原告の請求を棄却した。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法38条の2
体系項目 労働時間 (民事)/ 6 事業場外労働
裁判年月日 令和4年3月30日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和2年(ワ)21247号
裁判結果 棄却
出典 労働経済判例速報2490号3頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文 榎本英紀・労働経済判例速報2490号2頁2022年9月30日
判決理由 〔労働時間 (民事)/ 6 事業場外労働〕
(1)原告の業務は、営業先である医療機関を訪問して業務を行う外回りの業務であり、基本的な勤務形態としては、被告のオフィスに出勤することなく、自宅から営業先に直行し、業務が終了したら自宅に直接帰宅するというものであったことが認められる。そして、原告の各日の具体的な訪問先や訪問のスケジュールは、基本的には原告自身が決定しており、上司であるエリアマネージャーが、それらの詳細について具体的に決定ないし指示することはなく、各日の業務スケジュールについては原告の裁量に委ねられていたといえる。
 被告は、原告を含むMRに対し、週1回、訪問した施設や活動状況を記載した週報を上司であるエリアマネージャーに提出するよう指示していたが、週報の内容は極めて軽易なものであり、何時から何時までどのような業務を行っていたかといった業務スケジュールについて具体的に報告をさせるものではなかったことが認められる。
 被告では、平成31年1月以降は、原告を含むMRに対し、「E」といったシステムに、訪問先の施設、当該施設側の担当者及び活動結果の種別等の情報を入力させていたが、同システムは、顧客管理のために用いられていたものであり、各日の業務スケジュールについて具体的に入力するものであったとは認められない。
 さらに、被告は、原告を含むMRに対し、被告の備品であるスマートフォンを用いて本件システムにログインした上で出退勤時刻を打刻するよう指示しており、また、打刻を登録した際の場所が記録されるように、スマートフォンの位置情報を本件システムが利用できるようにした状態で打刻の登録を行うよう指示していたが、本件システムによる記録から把握できるのは、出退勤の打刻時刻とその登録がされた際の位置情報のみであり、出勤から退勤までの間の具体的な業務スケジュールについて記録されるものではなかったことが認められる。
(2)以上の事実を踏まえると、原告は、その労働時間について事業場外で業務に従事しているところ、各日の具体的な訪問先や訪問のスケジュールは原告の裁量に委ねられており、上司が決定したり指示したりするものではない上、業務内容に関する事後報告も軽易なものであることなどからすれば、使用者である被告は、労働者である原告の勤務の状況を具体的に把握することは困難であったと認めるのが相当である。
 以上によれば、原告の被告における業務は事業場外での労働に当たり、かつ、原告の事業場外労働は労働時間を算定し難い場合に当たるといえ、事業場外労働みなし制が適用される。