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ID番号 09498
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 竹中工務店ほか2社事件
争点 二重派遣の場合の労働契約申込みみなし制度の適用
事案概要 (1) 本件は、株式会社日本キャリアサーチ(以下「被告キャリア」という。)の従業員であった原告が、請負又は業務委託の形式で、株式会社竹中工務店(以下「被告竹中」という。)又は株式会社TAKシステムズ(以下「被告TAK」という。)に労務を提供したものの、実態は、被告竹中又は被告TAKから業務上の指示を受ける、いわゆる偽装請負であり、このことを大阪労働局に是正申告したところ被告キャリアから解雇されたと主張し、(1)被告竹中に対して、原告と被告竹中との間で、黙示の労働契約が成立した、あるいは労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)40条の6に基づき労働契約が成立したとして、〈1〉労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、〈2〉黙示の労働契約成立後の賃金等の支払を求め、(2)被告TAKに対して、原告と被告TAKとの間で、労働者派遣法40条の6に基づき労働契約が成立したとして、〈1〉労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、〈2〉労働契約成立後の賃金等の支払を求め、(3)被告キャリアに対し、解雇は労働契約法16条及び労働者派遣法49条の3第2項に違反して無効であるとして、〈1〉労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、〈2〉解雇日の翌日からの賃金等の支払を求め、(4)被告らに対し、上記違法な就労と解雇につき共同不法行為に基づく損害賠償として、220万円(内訳、慰謝料200万円、弁護士費用20万円)等の連帯支払を求める事案である。
(2)判決は、原告の請求をすべて棄却した。
参照法条 職業安定法44条
労働者派遣法 40条の6
体系項目 労基法の基本原則 (民事)/ 使用者/ (5) 派遣先会社
裁判年月日 令和4年3月30日
裁判所名 大阪地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和1年(ワ)11796号
裁判結果 棄却
出典 判例時報2555号31頁
判例タイムズ1508号146頁
労働判例1274号5頁
労働経済判例速報2489号3頁
労働法律旬報2010号54頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 控訴
評釈論文 萬井隆令・労働法律旬報2010号19~28頁2022年6月25日
西川翔大・民主法律時報583号4頁2022年4月
和田一郎・労働経済判例速報2489号2頁2022年9月20日
橋本陽子・ジュリスト1576号4~5頁2022年10月
木村恵子・経営法曹216号32~45頁2023年6月
判決理由 〔労基法の基本原則 (民事)/ 使用者/ (5) 派遣先会社〕
(1)原告と被告竹中との間の黙示の労働契約の成否について
 労働者と労務を提供する相手方との間に黙示の労働契約が成立しているか否かを判断するに当たっては、これと両立しない別当事者との労働契約関係の有無のほか、両者間に事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払関係の有無や態様等の諸事情を総合的に勘案して決するのが相当である。
 被告キャリアは、原告と期限の定めのない労働契約を締結しており、他方、新築工事現場の作業所施工図室(以下「本件作業所」という。)における業務は期限付きのものであって、原告を本件作業所における業務にのみ従事させることが予定されていたわけではない。そもそも、被告キャリアは、本件作業所における業務の話が出るより前に、原告の採用を内定しており、原告を伴って被告TAKに営業に赴いたところ、折しも、被告竹中が本件作業所で施工図作成業務を任せられる人材を探していたというにすぎないのであって、被告竹中が、被告TAKを通じて原告の採用や賃金の決定に関与したとは認められない。
 また被告キャリアは、本件作業所における原告の業務について、業務の予定と実績、労務時間及び実費を把握し、これを基に原告の賃金を計算し、被告キャリアとの労働契約に基づく賃金を原告に支給していたことが認められるのに対し、被告竹中が、本件作業所における原告の労働時間を管理し、原告の賃金額を決定していたことを認めるに足りる証拠はない。
 被告キャリアには、原告の使用者として、業務内容や就労場所について指揮命令を行い、契約形態や賃金について労務管理を行う意思が認められるのに対し、被告竹中に、原告の使用者となる意思や実態は認められない。
 以上の事実に徴すると、原告と被告キャリアとの労働契約が形骸化していたとはいえず、原告と被告竹中との間に事実上の使用従属関係や賃金支払関係等が成立していたとも認めることはできない。
(2)被告竹中に対する労働者派遣法40条の6第1項5号の該当性について
 本件作業所における原告の就労は、〈1〉被告竹中が被告TAKに施工図作成業務を委託し、〈2〉被告TAKが被告キャリアに同業務を再委託するという形式をとりながら、被告竹中が上記〈1〉〈2〉の契約を経て、被告キャリアの労働者である原告に直接指揮命令を行い、原告の労務の提供を受けるという二重の労働者供給(二重派遣)の状態であったということができる。
 しかし、労働者派遣法40条の6が申込みみなしの対象としているのは、「労働者派遣の役務の提供を受ける者」であるところ、被告竹中が契約を締結している相手方である被告TAKは、被告キャリアが雇用する労働者である原告とは雇用関係にはないため、被告竹中と被告TAKは、労働者派遣法2条1項にいう労働者派遣関係には立たない。したがって、被告竹中は、被告TAKから職業安定法4条7項の労働者供給を受けているものとして職業安定法44条に違反しているといいうるものの、労働者派遣法40条の6の申込みみなしの対象には当たらない。
(3)被告TAKに対する労働者派遣法40条の6第1項5号の該当性について
①令和元年7月25日から同年8月1日までの被告TAK大阪支店における原告の就労について
 被告TAK大阪支店における原告の就労は、本件作業所における業務が始まるまでの間の待機及び準備を目的とするものであったから、生産性に乏しく、具体的な仕事の完成を求めるものではなかったものの、上記目的の範囲で、被告TAKは、BIMを用いた施工図の作成を求めたり、資料を交付することとし、被告キャリアにおいて労働者である原告をして、自らの裁量で図面を完成させたり、交付された資料を読むなどの準備を行わせ、これに対して被告TAKが被告キャリアに報酬を支払うという請負であったということができる。
②令和元年8月2日以降の本件作業所における原告の就労について
被告TAKは、被告キャリアの労働者である原告を自ら指揮監督することなく、被告竹中の指揮監督下で労働に従事させ、職業安定法4条7項の労働者供給を行ったものとして職業安定法44条に違反するものの、労働者派遣法40条の6第1項の「労働者派遣の役務の提供を受ける者」ではないから、労働者派遣法40条の6の申込みみなしの対象には該当しないというべきである。
(4)被告キャリアと原告との間の労働契約について合意退職の有無ないし解雇の有効性について
 本件面談時までに、被告キャリアは、再三の慰留の末、原告に対してやむなく退職を勧奨し、原告から就業活動中の賃金の補償を求められたことを受けて、同年10月31日まで就労を免除し、その間の賃金を支払う旨の条件を提示し、原告は、被告キャリアから提示された条件を受け入れ、同日をもって退職することを承諾したと認められる。
 よって、被告キャリアと原告との労働契約は、本件面談時において、同年10月31日までの就労義務の免除と賃金の支払を条件に、同日をもって退職することについての合意が成立し、同日をもって終了している。
(5)被告らによる不法行為の成否について
 職業安定法44条の趣旨に鑑みれば、同条に違反する行為は、民法709条の違法性を帯びる行為というべきである。
 被告らは、大阪労働局の訪問調査を受けて、速やかに違法状態を是正すべく、本件作業所における原告の就労形態を二重請負から直接の労働者派遣に切り替えることを予定し、原告に提案していることが認められ、これが実現しなかったのは、専ら原告がこれを承諾しなかったために被告キャリアとの労働契約が終了するに至ったことによる。
 そして、上記違法な形態による原告の就労期間は、原告が本件作業所における就労を開始した令和元年8月2日から、長くとも本件作業所における就労が終了した同年9月30日までの約2か月間にとどまる。
 かえって、原告は、本件作業所で稼働して10日ほどで労働局に偽装請負の申告をする一方で、自ら積極的に被告竹中のJ課長に業務上の質問を行い、業務指示を仰ぐなど、原告の方から積極的に業務上の指示関係が形成されるような言動を行い、自ら進んで労働者派遣形態での業務従事の外形の作出に関わっていたほか、本件労働局通知や大阪労働局の訪問調査の内容に関して誓約書に違反する方法も用いて証拠を収集するなどし、違法状態を是正し健全な労働関係を形成する方向で働きかけを行うというより、違法な事実を作出し探索せんとするような態度に出ていたものと認められる。
 以上のほか、原告による被告竹中及び被告TAKの職業安定法違反等に係る告訴・告発は不起訴となっていること等、本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば、原告が被告らの対応に不信感や不快感を覚えたとしても、金銭賠償をもって補てんしなければならない精神的苦痛があるとまでは認められない。